[論説]地方創生の10年 中央集権化 見直す時だ
10年間の地方創生施策には有識者らから批判が集中する。政府が定めた「総合戦略」に沿って自治体は戦略を策定し、国が認めた事業に対し交付金を出す流れで、地方分権ではなく中央集権化が強まった。政府の地方創生推進事務局は「人口減少や東京圏への一極集中などの大きな流れを変えるには至っておらず、地方が厳しい状況にあることを重く受け止める必要がある」と総括する。
今後は、こうした反省や検証に基づいて施策を改める必要がある。そうでなければ失政は続き、予算を倍増しても効果は見込めない。自治体職員に過剰な負担を強いることになり、都会のコンサルタント会社に戦略を丸投げする自治体はさらに増えるだろう。
この10年で、学校の統廃合や出産ができる病院の閉鎖、鉄道やバスの減便など農村の大切なインフラが切り捨てられてきたことも、猛省を促したい。農村にとって生活の基盤なくして地方創生はない。だが、こうした政策は縦割りで個別に論じられてきた。
地方創生の旗振り役となるはずの農水省の姿勢も問いたい。同省は、中山間地域等直接支払制度で来年度から営農以外の暮らしを守る集落機能強化加算の廃止を打ち出した。有識者による検討も経ずに、同制度を農業生産に特化させる方針は、地方創生や農村政策への軽視と言える。
同省の示した方針は、地域コミュニティーが維持され、学校や商店、交通があるからこそ農業が維持できるという理念が欠落している。このままでは農家の所得確保は難しい。同加算の廃止方針から同省の姿勢がうかがえ、「地方創生の再起動」自体が問われることになる。
一方、この10年で若者らが多様な面から農村に価値を見いだし、移住者や関係人口などの応援団が広がった。人口が減っても、人々が生き生きと暮らせる農村に再生する兆しは各地で芽生えている。
今後は、こうした農村の可能性を信じ、農村の自主的な発案をいかに国が後押しできるか、農村に関心を寄せる人々をいかに支え、育むかが鍵となる。成果を急ぐのではなく、住民主体の地域づくりを政府や自治体が後押しする仕組みが求められている。
石破首相は「地方こそ成長の主役」と強調する。予算を増やすだけではなく、問われるのは支援の仕組みだ。