[論説]広がる鹿害 広域連携で対策強化を
鳥獣による農作物被害額は、10年度の239億円をピークに、近年は150億円台で推移している。鳥獣別(22年度)では鹿が65億円、イノシシ36億円、鳥類28億円と続く。森林の被害面積は約5000ヘクタールに上り、約7割は鹿が原因だ。希少植物の食害などを含めると、数字以上に影響は大きく、鹿の被害をどう防ぐかが問われている。
人身事故も起きている。今月9日、京都府福知山市で農家の男性が胸から血を流して死亡していたことが分かった。鹿の角に刺されたとみられ、鹿よけのフェンスで囲まれた田んぼに雄の鹿が侵入した恐れがあるという。
農水省によると、鹿による農作物被害があった市町村の割合は、この10年間で33都道府県で増え、東北6県はいずれも10ポイントを超える増加となった。全体では福井県の35ポイント増が最大で、次いで岩手、鳥取と続いた。同省は「少雪などで鹿の生息域が広がり、被害地域の増加につながった」(鳥獣対策・農村振興課)とみる。
農水、環境の両省は23年度までに生息頭数を鹿は約155万頭、イノシシは約60万頭と11年度比で半減させる目標を掲げたが、達成できなかった。特に鹿は近年250万頭ほどで推移。両省は昨年、さらに5年間の延長を決めたが、狩猟者の高齢化が進んで担い手は不足し、目標達成のハードルは高い。
求められるのは、地域を越えた連携だ。具体的には①やぶの刈り払いなど生息環境の管理②柵の設置など侵入防止対策の徹底③捕獲による個体数管理――が重要となる。
23年4月時点で、全市町村の約9割に当たる1517市町村が鳥獣被害防止特措法に基づく「被害防止計画」を策定、うち8割に当たる1246市町村は、鳥獣の捕獲や柵の設置などを担う「鳥獣被害対策実施隊」を設置し、隊員は4万2000人を超えた。
農水省は、23年度の補正予算から「シカ特別対策事業」を実施し、市町村の境や川沿い、沼地など、これまで十分に対応ができなかった広域な活動を支援する。情報通信技術(ICT)も活用し、センサーカメラで鳥獣の生息域や種類を把握し、効果的なわな設置につなげたい。
鳥獣害を放置すれば、離農の引き金になる。農家の命と農作物を守るには鳥獣害対策は欠かせない。万全な予算確保と対策の強化が必要だ。