[論説]新たな選挙区割り 農政課題 埋没させるな
投開票が27日に迫る衆院選は、選挙区の定数が「10増10減」になるなど、新たな区割りが導入された。議員1人当たりの有権者数の差を示す「1票の格差」を是正するのが目的だ。人口の多い地域の議員定数が増える半面、人口の少ない地域では議員を減らし、有権者数の差を是正する。
定数が減ったのは宮城、福島、新潟、滋賀、和歌山、岡山、広島、山口、愛媛、長崎の10県で、いずれも1議席が減った。農村地域の課題を吸い上げ国政に反映させる国会議員の数が減り、新たな区割りで範囲が広くなった選挙区が生じている。
各地域では、有権者である農家の数も減っている。農業現場は、肥料や飼料などの資材価格の高騰が続き、労働力不足も深刻だ。経営は圧迫されて離農が増え、農村コミュニティーの維持さえ危うい。こうした状態で食料安全保障は確保できるのか。
立候補者に求めたいのは、選挙区割りが変更されても、有権者である地域の農家が抱えるさまざまな農政課題を埋もれさせることなく丁寧に把握し、必要な施策を国政に反映していくことだ。
選挙戦では現在、「政治とカネ」問題への対応、農業分野では米政策や農畜産物の適正な価格形成、直接支払制度などについて与野党の主張が熱を帯びている。これらに加えて各選挙区の立候補者は、農家ら地域住民一人一人が何に悩み、どのような政策を求めているか、真剣に有権者と対話することに重点を置いてほしい。選挙区が変わっても、若者をはじめ、多様な世代が政治をもっと身近に感じられる論戦を求めたい。
民主主義を守る上で重要なのは、多様な声に耳を傾け、話し合いの中で方向性を決定することだ。中長期的には、選挙区割りの在り方も検討する必要があるのではないか。
今回は2022年の公職選挙法改正後、初の国政選挙となる。区割りの見直しで、国民全体の1票の重みが均衡していく半面、一部地域では議員定数が減った。地域の声が国政にきちんと届くようにするには国会議員の資質だけでなく、制度面でも担保していくことが望まれる。
「1票の格差」是正と農業農村の課題共有へ、バランスをどう取るか。議会制度の在り方を含め、幅広い視点で考えるべきだ。政府だけでなく与野党でも検討を求めたい。