[論説]深まらぬ農政論議 所得確保の具体策競え
今回の衆院選は、各党とも農業重視の姿勢を打ち出している。日本農業新聞が各党に実施した農政公約アンケートでは、年間3兆円強(当初・補正の合計)で推移する農業予算について、全党が「増額」の意向を示した。
「農政で最も訴えたいこと」について尋ねたところ、与党が挙げたのが、生産費を考慮した適正な価格形成を念頭にした「所得増大」。一方、野党の多くは新たな直接支払制度や所得補償を掲げた。生産資材の高騰が長引き、農畜産物への価格転嫁も進まない中、各党が農家の所得確保に力を入れる姿勢を鮮明にした格好だ。
だが、気になるのは、それらを本当に実現できるのかという点だ。政府・与党は適正な価格形成の仕組みづくりに向け、来年の通常国会に関連法案を提出する方針だが、農家の所得安定につながる実効性のある仕組みになるかは見通せない。野党が唱える新たな直接支払制度や所得補償も、肝心の財源をどう確保するのか不透明だ。
今回の衆院選では、こうした懸念を払拭できる具体的で突っ込んだ論戦を期待したいが、今のところ、物足りないと言わざるを得ない。選挙最終盤に入り、むしろ「政治とカネ」を巡る論戦が一層熱を帯びている状況だ。
報道各社の情勢調査で議席増が伝えられ、勢いに乗る立憲民主党の野田佳彦代表は、政治資金収支報告書の不記載問題に対する批判を強める。これに対し、石破茂首相(自民党総裁)も「新しい自民党をつくる」などと、同問題と決別アピールに時間を割く場面が目立ってきた。農村にある選挙区でも候補者の演説は、「政治とカネ」の問題が中心となり、自給率向上などの政策論議はかすみがちだ。
これでは判断材料に欠け、どこに投票したらいいのか悩む農家も出かねない。加えて今回は、小選挙区の定数を「10増10減」して行う初の総選挙となる。東京や神奈川など人口の多い都市部の5都県で選挙区が増える一方、宮城や福島など農村部を抱える10県で選挙区が減る。中山間地域を支える農家らの声が、政治に届きにくくなるとの懸念も広がっている。
疲弊が進む農業農村をどう再生させるのか、二重災害に苦しむ能登をどう復旧させるのか。「政治とカネ」問題に終始することなく、各党は農業政策で戦ってほしい。