[論説]衆院選 自民大敗で激震 農政の停滞許されない
政治資金の透明性確保と適正な使用は、政治の信頼に直結する。自民党派閥による裏金問題は、その土台を揺るがした。自民党は、政治資金規正法の一部改正で乗り切ろうとしたが、有権者が下した審判は厳しかった。
石破首相の「変節」ぶりにも国民の不信感が募った。「国民の共感と納得が得られるよう努力する」としながらも、「政治とカネ」の問題に対して有権者の共感と納得を得られぬまま、首相就任から8日後に解散に踏み切った。地震と豪雨の二重災害に苦しむ能登の復旧より、党利党略を優先したとの批判もあった。
野党も課題を残した。立民、国民が躍進するなど勢力を伸ばしたが、ほとんどの小選挙区で一本化できず、政権構想がはっきりしなかった。
今回の選挙で、石破首相の政権運営は一段と厳しくなるだろうが、政治の停滞は許されない。紛争が相次ぐ国際情勢や多発する自然災害など内外の難問はめじろ押しだ。
選挙戦では「政治とカネ」問題に加え、農家所得の確保や低迷する食料自給率の向上策など農政の在り方も争点となった。米消費が落ち込んでいるといいながら、主食の米が品不足に陥る「令和の米騒動」が起き、政府与党の対応が問われた。
国内の農業は、高齢化と担い手不足が急速に進む。このままでは農業生産はおろか、農村社会の危機につながる。際限のない貿易自由化に加え、安倍・菅政権下で進められた規制緩和の影響が大きいと考える。
石破政権は、市場原理的な新自由主義の政策と決別し、農業・農村振興を軸とした地方創生の実現に全力を挙げるべきだ。政府の食料・農業・農村基本計画の策定もヤマ場を迎える。食料自給率目標を明記し、その実現に向けて実効性のある計画を描けるかが問われている。輸入肥料や飼料など生産資材の高止まりが続く中、農家の所得確保に向けて、農畜産物の適正な価格形成も急がねばならない。
課題は財源だ。日本農業新聞が行った主要各党へのアンケートでは、全ての党が農業予算を「増額する」意向を示した。政局が流動化しても、与野党を挙げて、農業予算の増額と振興に取り組むべきだ。
今回の選挙で、政治不信の「みそぎ」が終わったわけではない。来夏には参院選がある。信頼回復はこれからだ。