[論説]与党過半数割れの衝撃 党派超えて農政熟議を
自民党が大敗した最大の原因は、「政治とカネ」の問題だった。背景には2012年に政権奪取した第2次安倍政権以降のおごりがある。加えて石破茂首相の“変節”に対しても、有権者から厳しい評価が下った。自民党総裁選で、予算委員会を開いた上で解散の時期を探ると語っていたにもかかわらず、戦後最短の日程で解散に踏み切った。
過半数を割り込んだ自民、公明両党が今後、どのように政権運営を進めるかは不透明だ。過半数の233議席を18議席下回り、非公認で当選した議員の追加公認などを行っても過半数には届かない。今後、政権の流動化は一気に進み、野党との連携・協力を模索しながらの船出となる。石破首相が選挙戦で掲げた公約をどこまで実現できるかが、厳しく問われている。
ただ、石破首相が公約の最重要課題として掲げた農業を柱とした地方創生、日本創生が否定されたわけではないはずだ。首相は選挙戦中盤以降、地方創生や物価高対策などを重点的に訴えたが、「政治とカネ」問題への厳しい批判にのみ込まれる形で、与野党間で農政への論戦が深まらなかった。今回、大躍進した立憲民主や国民民主などの各野党も、地方創生なくして日本経済の活性化は成し遂げられないとの考えは同じはずだ。与党には「数の力」で押し切る手法ではなく、党派を超えて知恵を出し合い、農業農村の課題を解決する丁寧な国会運営が求められる。
地方を大切にする石破首相への期待は大きい。日本農業新聞が農政モニターを対象にした調査結果では、石破内閣の農業政策を「期待する」と答えた人は60%に上った。衆院選の投票行動(出口)調査では、選挙区の投票先を「自民党」と回答したのは前回衆院選と同水準の54・4%。地方ほど根強い支持がある。それにもかかわらず、自民党が大敗したのは「政治とカネ」問題への批判と、小選挙区を「10増10減」し、人口の少ない農村部の議席を減らし、都市部に比重を置いた区割り変更の影響もうかがえる。
主要各党に行った農業公約アンケートの結果では、全党が農業予算を「増額する」と答えている。農家所得の確保策で各党で差異はあるものの、農業を重視する考えでは一致している。与野党は農政課題を国会で熟議し、一致点を探ってもらいたい。