[論説]日本農村医学会の意義 命守る積極的な提言を
学会長を務めたJA新潟厚生連佐渡総合病院の佐藤賢治病院長は、高齢化率43%超と高く「日本の将来の縮図」と言われる佐渡市での取り組みを紹介。同市は、住民の「Well-Being(ウェルビーイング=寿命を迎えるまで生活できる取り組み)」を目標に、多様な職種が連携した協議体を設置し、行政・医療・介護・福祉の情報を共有する地域医療連携システム「さどひまわりネット」を運営し対応していると紹介した。
同ネットは10月現在で74の病院や診療所、薬局、介護施設などが加入し、薬や介護情報などの共有を同意した住民は1万7471人に上る。暮らしに直接関わる情報を共有することで医師不足や高齢社会の課題を、地域の「協働」で乗り越えていると報告した。今後、高齢化はさらに進み、医療や介護、福祉の利用者も増える。佐渡の取り組みを全国に広げたい。
農業現場で頻発する農作業事故をどう防ぐか、国内外の取り組みを共有するのも同学会の強みだ。JAえちご上越営農部の清水薫さんは「農業経営サポートセンター」を新設し、主要業務として農家の労災保険の加入を勧めていると発表。けがの多い刈り払い機による事故を防ごうとJAが窓口となって「刈払機取扱作業者安全衛生教育」の資格取得講習会も開く。課題は労災保険の加入拡大と作業環境の改善、熱中症対策と指摘した。官民挙げた事故防止の取り組みが欠かせない。
同学会の使命は、農村医療を世に問うことにある。1985年に長野市で開いた第34回学会では、摂取すれば死に至る恐れがある農薬「パラコート」の使用規制を勧告。第67回(2018年)では、「高齢農業労働者が安全に長い期間、農業に従事できるように農業環境整備を行う」などの七つの内容を盛り込んだ「東京宣言」を採択した。
しかし、今回は「超少子化高齢社会への提言」をテーマにしたものの、学会として提言の採択や勧告はなかった。
高齢社会を先取りした農村現場からの提言は、政府の医療や介護、福祉政策に大きく貢献するはずだ。例えば、24年度から始まった厚生労働省の「第8次医療計画」や、農水省が来春に向けて策定を進める食料・農業・農村基本計画などに対し、農家や地域住民の命を支える立場から積極的に提言すべきだ。