[論説]深刻化する鳥獣害 ハンター育成支援急げ
鳥獣害対策は一義的には、イノシシや鹿など野生動物との共存へ、作物から動物を遠ざけることが重要だ。だが、頭数が増え過ぎてしまった場合や危険な形で市民と遭遇した時はハンターによる対応が不可欠。鹿などの被害が増加傾向にある中、ハンターは最後のとりでと言える。
課題は、高齢化によるハンターの人材不足だ。環境省によると、全国で狩猟免許の発行を受けた人のうち60歳以上が6割で最多。次代の担い手となる20、30代は計2割程度しかいない。当然、年齢が上ほど経験が豊富となるが、このまま推移すれば、地域農業に欠かせない狩猟の担い手は激減してしまう。
ハンターが激減すれば、技術も伝承されなくなる。北海道では、かつて冬眠明けのヒグマを狙う「春グマ駆除」が行われていたが、生息数が急減したとして約30年前に廃止された経緯がある。危険を伴う狩猟法だが、若いハンターはこうした技術を学べないことになる。ヒグマ被害の増加を受けて道内では春季捕獲が再開されたが、経験不足のハンターはベテランに頼るしかない。
狩猟活動を取り巻く環境は厳しい。ロシアによるウクライナ侵攻で銃弾価格はこれまでの約2倍となり、自治体の報奨金を含めても「赤字だ」と嘆くハンターもいる。ハンターはボランティアではなく、要請があれば自分の仕事を中断しても駆け付けなくてはならない。猟銃を所持し、自宅で保管するにも家族の理解が必要だ。ハンターを続けることへの負担が大きければ、担い手は減ってしまう。
求めたいのは、将来を見据えたハンターの育成、確保だ。道は2023年度補正予算で、市町村などによる育成研修などを補助する費用に1500万円を計上。狩猟免許試験を受ける人を増やそうと試験の定員制も廃止した。
ハンターという仕事に興味を持ってもらおうと札幌市で9月、若手ハンターと飲食店経営者がジビエ(野生鳥獣の肉)の魅力を語るフォーラムが開かれた。食べることを通して、若者がハンターという仕事を知るきっかけをつくりたい。
狩猟免許を取得できるのは20歳からだが、農業系の大学校などと連携を密にし、ハンターの技術や意義を伝え、次代の担い手を育てる仕掛けづくりも必要となる。