[論説]集落機能加算の廃止 農村軽視で容認できぬ
同省は有識者による同制度の第三者委員会での評価・検証を経ずに、8月に同加算を廃止する方針を示した。現場に混乱が広がり、同委員会の図司直也委員長(法政大学教授)は適切な評価作業を求める要望書を提出。委員の再三の要求を受け、同省は11月中旬に委員会を開いた。
同省は、「農業生産の継続につながったとは言えない」と同加算を厳しく評価する資料を提出。さらに農村振興はあくまでも「業」として農業がされる場合の支援であり、同制度で継続的に生活支援はできないと説明した。同加算への低評価に対し、委員からは「根拠がない」「過度に厳しい」とする意見が相次いだ。農村現場を無視した「結論ありき」の廃止であり、それに合わせた説明や資料だったと指摘せざるを得ない。
さらに現場や複数の有識者からは「生活と営農を切り離す農水省幹部の意見は衝撃的」「暮らしと営農が一体という中山間地の現場がまるで分かっていない」などと批判が続出している。当然だ。委員会での同省の説明は「地域社会の維持」が明記された改正食料・農業・農村基本法にも反している。
同省は、2024年度まで加算対象となっている集落は、来年度以降も経過措置を設け、他の集落と連携する別の加算で支援を継続する。ただ、新規に生活支援を求める集落の加算は認めない方針だ。その理由について同省は「(生活支援が)農水省の予算として前面に押し出せるのかというと難しい」と説明した。集落機能の維持は同省の本丸の事業ではないかのような言い方で、看過できない。
委員の総意で、8月に公表した本年度までの5期対策の最終評価を修正する異例の事態となった。最終評価を修正するのであれば、24年度の同加算の存廃も再検討されなければ整合性はとれない。
一方、同省は同制度の棚田加算では生活支援を認めている。さらに棚田振興法では「農業のみに着目した棚田の維持には限界がある」とする。中山間地域と棚田でなぜ生活支援を巡る差が生まれるのか。矛盾ではないか。
加算廃止に至るプロセスの不透明さだけでなく廃止の理由、その後の対応に至るまで同省の姿勢は問題だ。このままでは自治体や農家、関係者との信頼関係に亀裂が入り禍根を残す。加算廃止の再検討へ江藤拓農相の強いリーダーシップを求める。