[論説]子どもの心の健康 地域ぐるみで育てよう
ユニセフは今月、先進・新興国43カ国の子どもの「幸福度」を調査した報告書を公表した。日本は総合順位で14位(前回は20位)と上がったものの、高い自殺率などを踏まえ、「精神的な健康度」は32位(同37位)と低迷が続く。
報告書によると、日本の若者(15~19歳)の自殺率は、18年の10万人当たり7・4人から22年には10・4人に増加、高所得率国平均(6・24人)のほぼ2倍に当たる。心の病気の発症率も高まっており、メンタルヘルスの問題が自殺増加の原因となっている可能性を指摘している。
精神の不安定さは、他者への危害にもつながる。今月、少年によるとみられる殺人事件が立て続けに発生した。千葉市では、路上で84歳の女性が刃物で殺害され、中学3年生の15歳の少年が殺人容疑で逮捕された。愛知県田原市では、住宅で70代の夫婦が殺害され、同居する高校2年生の16歳の少年が逮捕された。24日には山梨県南アルプス市で、28日には宮崎市で少年による殺人・殺人未遂事件が相次いで発生した。類似の事件を防ぐためにも、動機の解明と対策を急ぐべきだ。
「教育虐待」という言葉も注目を集める。子どもの限度を超えて、勉強を強制することと定義される。親の意識としては「教育・しつけ」の一環と捉えがちだが、子どもの心を深く傷付けている恐れがある。今月、東京の地下鉄構内で東大生が切り付けられた事件では、逮捕された43歳の容疑者が「中学時代に親から教育虐待を受けた」と供述した。どんな理由があったにせよ犯罪を正当化することはできないが、子どもの頃に受けた心の傷が人生を狂わせてしまった。学歴偏重社会を考え直すきっかけとしたい。
政府の調査によると、日本の子どもは、自信がなく自分は無価値だと思い込み、他国より自己肯定感が低い傾向がうかがえる。他者と比較し優劣を付けるのではなく、それぞれの子どもの長所を伸ばす教育への転換が急がれる。
農山漁村の役割も大きい。農業体験は子どもの心をほぐし、学校とは違う充実感や満足感が得られる。食と農をつなぐJAの出番だ。地元の小中学校、高校やフリースクールなどと積極的に連携を進めたい。子どもの命を守るために、心を守ることから始めよう。できることを私たち一人一人が考え、行動しよう。