学びの水田に歓声戻れ 大阪・渚水みらいセンター(動画あり)
大阪府枚方市にある「渚(なぎさ)水みらいセンター」は、敷地内に50アールの田がある全国でも珍しい下水処理場だ。20年前から農家と連携して再生水を使った米作りに挑み毎年、小学生200人が田植えや稲刈り体験を通じて「未利用資源の活用」を学んできた。ところが、新型コロナウイルス禍で小学生の体験活動は3年連続中止に。関係者は「来年こそは子どもたちと一緒に」と願い、今年も“静かな稲刈り”を終えた。(栗田慎一)
秋晴れの10月20日、稲穂の垂れるセンターの田をコンバインが行き交っていた。「コロナ前は子どもの歓声が響いてたんや」。もみ米の袋詰め作業をしていた御殿山土地改良区の副理事長で、農家の山條敏和さん(76)が遠い目をして言う。
2019年まで市内3校の5年生が、山條さんら改良区のメンバーに鎌の使い方を教わりながら、半日かけて稲刈りをした。コロナ禍の20年からは、コンバインを使って約1時間で刈り取る。
府下水道室によると再生水を使った稲作は、1996年に起きた大渇水がきっかけだ。府内に14ある下水処理場の中で、同センターだけが田園地帯にあった。水不足に苦しんだ改良区の要望を受け、01年に栽培実験を開始。「循環型社会の形成」を掲げた府の施策とも合致した。
実験はJA北河内の協力で5年間続いた。50アールを5区画に分け、淀川の水を使った通常栽培と、再生水や窒素施肥量の割合を変えた栽培で、食味、収量などを調べた。食味値は「全量再生水と窒素施肥量ゼロ」での栽培が最高だったが、収量は通常栽培の6割。収量は「全量再生水と通常の窒素施肥」での栽培が最多だが、食味値は最低だった。再生水の安全性も証明された。
「窒素の豊富な再生水の活用術が分かった」。改良区の理事長で農家の田中勇さん(79)が振り返る。実験後は再生水と淀川の水の混合水と、適度な窒素施肥で栽培。「なぎさ米」の愛称で学校の調理実習で使われたり、市のイベントで配布されたりしている。
改良区は、周辺地域の田への再生水供給を目指したが、設備の建設・運営費や電気代の負担の重さに断念を強いられた。センターの水田は、資源循環を学ぶ場となり今に続く。
「子どもたちが来てくれないと、やりがいがない。来年はコロナの収束を」。改良区メンバーやセンター職員が口をそろえて願った。
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