いくつもの田が重なり畦畔(けいはん)の草刈りも行き届いている。「とてもきれいな光景で、今でも忘れられないほど感動した」。唐澤さんは「西山の棚田」を初めて目にした時の印象をそう語る。
千葉県出身の唐澤さんは西山地域に縁はなく、大学卒業後の旅行中、電車の車窓から同地域の棚田を見たのがきっかけだった。
東京農業大学で土壌学を学び、農業を志すようになっていた唐澤さんは「ああいう場所に住んで農業がしたい」と思うようになった。
大学卒業後、栃木県で農業を学び、25歳で同市の農家で研修を始めた。就農先として同地域を紹介されると「これはもう運命だ」と確信。移住し、就農を決めた。
農業委員会を通じて借りたのは畑2・5ヘクタール。「いつか棚田で米作りをしたい」と考えるも当初は経営安定を優先。少量多品目の野菜を栽培し、売り先も確保し、販売が軌道に乗ってきた2021年から、念願の米作りに参加。約500枚に上る棚田を地域の農家と回り田植えや草刈り、収穫を手伝った。「自分の経営の地固めをしっかりしながら、棚田にも積極的に関わりたい」と思い描く。
魅力インスタで
中山間地域等直接支払制度の西山集落協定の事務局も担う唐澤さんは、棚田や地域の魅力発信に力を入れる。
「伊賀 西山の棚田」の名前で管理するインスタグラムには、水面に日の光が差し込む棚田などの写真が数多く並ぶ。県やイラストレーターの協力を得て「西山の棚田散策マップ」の作成にも携わった。
20年には「西山の棚田」が国の「指定棚田地域」に認定された。「今後も多くの人に魅力を伝えたい」と意気込む。
同地域は人口約400人の半数以上が65歳以上で占める。同協定代表の重倉純男さん(73)は、農業だけではなく地域活動に関わる唐澤さんを「とても助かっている。地域に欠かせない存在」と期待。「棚田を含め地域を守る担い手として育ってくれるよう、みんなで支えたい」と話す。
保全参加広がる
農水省は、中山間地域等直接支払制度の第5期対策(2020~24年度)で、棚田地域振興の加算措置を新設。制度全体の交付面積が減少する中、同加算措置に限っては2年目の21年度時点で5978ヘクタールとなり、前年から30%増えた。
同加算を利用する集落協定の参加者は1協定当たり42・5人、農家ではない人の割合は8%。制度全体の平均値の21・3人、4・3%を上回る。
同省は「加算措置を生かして棚田を保全する機運は高まっている。農家ではない人の参加も多く、人材確保にもつながっている」(中山間地域・日本型直接支払室)とみる。