仕掛けたのは、同県野々市市の農業法人オーガニックベース石川。2030年までに能登半島で200ヘクタールの生産拠点をつくることを目標に掲げる。クラウドファンディング(CF)で“村民”を集め、珠洲市の耕作放棄地1・3ヘクタールで野菜作りを始めた。
村民には、生産した農産物を届ける他、住民票ともいえる「村民カード」を発行する。カードがあれば、いつでも農地に行って法人のスタッフと共に農作業ができ、収穫した野菜も持ち帰れる。法人が生産を一手に引き受けるのではなく、消費者である村民も農業従事者として生産に携わる仕組みだ。
「農業はプロだけが関わる時代じゃない。消費者も巻き込む生産システムが必要だ」
そう話すのは同法人代表の洲崎邦郎さん(65)。七尾市でオリーブ農家をしながら、県産野菜を扱う青果店も経営する中で、日頃から日本の食料自給率の低さに危機感を覚えていたという。
一方で、青果店の客には、食の安全性や農業体験などに関心を持つ人が多かった。顔が見える農産物を売るだけでなく、消費者が自分たちで育てた野菜を食べられる仕組みをつくろうと、舞台に選んだのが能登だった。しかし「地震で全て頓挫した」(洲崎さん)。
活動拠点だった納屋は全壊し、農機も下敷きになった。農地は無事だが農業用水が確保できない。珠洲市での営農は断念せざるを得なかった。洲崎さんは「農業の関係人口になり得る村民が全国に100人いる。その芽を摘むわけにはいかない」と、知人から野々市市の農地20アールを借り、再スタートを切った。
野々市市で野菜の種まき作業を手伝った高山里美さん(37)は、白山市在住の2児の母。子どもが農業に触れる場を持ちたいと考え村民になった。「観光農園と違い単発ではなく、一から十まで“線”で農業を体験させられる」と期待する。
「能登って心が豊かになれる場所なんです。村民には、能登が第二の居場所だと思ってほしい」と話す洲崎さん。通い農業で能登半島に足を運ぶうちに、山に囲まれた風土や郷土料理など、昔懐かしい能登に魅せられた。生産拠点が人口流入につながればと願う。
今年は野々市市で生産しながら、珠洲市の復旧に取りかかる方針だ。現在は活動の一環として、被災地の耕作放棄地や遊休農地で、平和の象徴ともいわれるオリーブを植える新たなプロジェクトを立ち上げ、CFで支援を募っている。能登の復興への道のりを共にする関係人口を増やそうと奔走している。