[論説]憲法の現在地 農業振興で「生存権」守れ
今日は憲法記念日。施行から77年、戦後日本は先の大戦の反省から不戦の誓いを立て、平和な民主国家の道を歩んで来た。この間の社会、経済、国際情勢の変化を受け、岸田文雄首相は、1月の施政方針演説で、自民党総裁任期中の憲法改正に改めて意欲を見せた。既に自民党は、自衛隊の明記や緊急事態対応などの改憲草案をまとめ、与野党に協議を促している。
4月に開かれた衆院憲法審査会では、自民・公明両党、日本維新の会、国民民主党が憲法改正原案づくりに前向きな姿勢を示したのに対し、立憲民主党、共産党が反対を表明。今国会で改正原案が成立する見通しは立っていない。
憲法改正は、衆参議員の3分の2の賛成を経て、国民投票で過半数の賛成を得る必要がある。国民の関心が低いことに加え、この間の自民党の裏金問題による政治不信の高まりで、改憲への機運は後退している印象だ。法律を守れない政治家に、憲法改正を語る資格はないと見なされても仕方ないだろう。
憲法には国家権力の乱用を規正する役割がある。だが憲法の矩(のり)を超えかねない法制度の改正なども相次ぐ。専守防衛の基本原則に抵触しかねない敵基地を攻撃する反撃能力、条件付きながら武器輸出に道を開く防衛装備移転などがそうだ。
さらに国民の知る権利を侵害しかねないと批判された特定秘密保護法。政府は同法を拡大し、経済安全保障分野の重要情報の取り扱いに関し、「適性評価制度」を導入し、民間人らの「身辺調査」を行う法制度の創設も目指す。
恐れるのは国際情勢の悪化を受けて、国民論議が不在のまま憲法の精神が形骸化していくことだ。日米同盟の一段の強化をうたった先の首脳会談もしかり。際限なき軍拡路線に突き進むことを危ぶむ。
現在、国会で審議中の「農政の憲法」、食料・農業・農村基本法改正案も国民生活に関わる重要課題である。今回の改正案は、食料安全保障の重要性を前面に押し出しており、まさに憲法の定める「生存権」に直結する。農業・農村の振興は、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(25条1項)と密接不可分の関係にある。
食と農をどう守るか。私たち一人一人が憲法を身近な暮らしの視点で捉え直し、あるべき姿を考える時である。