クランベリーに着目したのは移住5年目の石澤毅臣さん(40)。ソムリエだったが、この地でワイン向けブドウや苗木の栽培、販売を手がける企業のオーナーに請われて移住した。北海道向けのブドウ「山幸」を試しに植えたところ、生育が好調だったことから、北海道の湿地で自生するクランベリーの栽培を思い付いた。剪定(せんてい)も不要なため、休耕田の粗放的利用に適役だと考えた。
本年度から地区の2カ所、計約2アールで試験栽培を始め、3年後の収穫本格化を目指す。北米では、パイなどのスイーツによく使われる。同地区でも、菓子への加工や飲食店への販売を見込む。石澤さんは交流サイト(SNS)の活用も想定。「赤い実はSNS映えするはずだ」と語る。
4月に開かれた農村RMO「日向ふるさとづくり協議会」の設立総会で提案した際は、実績のない作物に懸念も出た。石澤さんは「国内での販売はほぼなく、他地域と差異化できる」と訴え、他の参加者から挑戦を応援する声も上がった。
市によると、12集落に800人弱が暮らす同地区の高齢化率(65歳以上の割合)は51・9%。地域の若手農家は「草刈りも60、70代が中心。担い手不足が表面化してきた。この5年間が勝負どころだ」と危機感を示す。
農村RMOでは、国の農山漁村振興交付金を活用し、地域の将来ビジョン策定と並行して地域課題の解決に取り組む。集落周辺の草刈りによる「緩衝地帯」を設けて熊などの鳥獣害対策を実施。労働力不足解消のため、地域の情報発信や求人ができるアプリの開発も検討する。県でも、伴走支援チームを近く立ち上げる予定だ。
同地区で水稲や稲発酵粗飼料(WCS)など約60ヘクタールを手がける「和農日向」代表で、農村RMOの副会長も務める阿曽千一さんは「国の支援を終えた後が大事。一過性にせず、地域で考える契機にしたい」と語る。