北海道東神楽町の田園地帯にたたずむ「東神楽大学」。名前に「大学」を冠するが、その正体はレンタルオフィスやシェアキッチン、宿泊設備を備えた複合施設だ。農業支援に取り組むベンチャー企業が廃校を改修。地域と農家の懸け橋として、地場産野菜の直売や学校給食に野菜を提供している。

　東神楽大学は２０２１年に閉校した忠栄小学校を改修し、２２年１２月にオープンした。全国でマルシェの開催やプロデュースを行うＡｇｒｉＩｎｎｏｖａｔｉｏｎＤｅｓｉｇｎ（アグリイノベーションデザイン）が運営する。

　「地方に都会以上のきっかけを」をコンセプトに、これまで地域になかった設備をそろえる。年代や性別を超えて成長できる場にしたいという思いから「大学」と名付けた。三つの“学部”を設け、レンタルスペースやゲストハウス、キャンプ場などを展開。元給食室のシェアキッチンは、町で唯一、菓子製造許可を持つ工房として人気がある。

　施設を拠点にした農業振興も多彩だ。「購買部」では、地域の農家やＪＡから仕入れた野菜を販売。キャンプ場を利用する人が、バーベキュー用の野菜を目当てに来店することも多いという。地元のスーパーやコンビニにも朝取れ野菜を卸す。

　「地域の基幹産業は農業なのに、学校給食で提供されていないことが疑問だった」と話す脇坂真吏代表。町内の小中学校の給食にも野菜を提供する。地域ではトウモロコシ、シイタケなど多様な品目が栽培されているが、給食で使われるのは米だけだった。毎月の献立を基に、対応できる品目で集荷し、納品する。町内の９０ヘクタールで水稲や小麦、アスパラガス、ジャガイモを栽培する吉原康弘さん（３６）は「給食に使ってもらいたいと以前から思っていたが、ハードルが高かった。地域農業を子どもたちにも知ってもらえ、やりがいにつながっている」と話す。

　同町は旭川空港からアクセスが良い半面、観光客が立ち寄れる場が少ないことが課題だ。東神楽大学ができたことで町への誘客につながっている。脇坂代表は「今後は農家と連携した観光農園などのグリーン・ツーリズムを展開していきたい」と意気込む。