
「真っ黒に色づく時期なのに、まだ黄緑の粒がある」。甲府市にある2ヘクタールの果樹園で30種のブドウを栽培する山坂勇樹さん(38)が、大粒で黒紫色の皮が特徴の「ピオーネ」を1房ずつ確認していた。7月31日午前10時、園内は早くも30度を超えていた。ブドウを直射日光から守る果実袋を丁寧にかけ直す。
警察官から転身し就農9年目。近年の暑さは異常だと感じている。ファン付き上衣を常用し、日の出前に薬剤散布などの体力仕事を始め、90分ごとに30分休憩する。園内の気温を下げるため、ホワイトクローバーやライ麦などの雑草を伸ばす「草生栽培」も試みる。
盆地にある甲府は本来、昼間は暖気が、夜間は冷気が斜面と平地の間を循環するため寒暖差が大きく、果実の栽培に適した気候だ。JA山梨みらいによると、今年は日焼け果や着色不良への恐れがあるという。7月下旬は40度近い猛暑が続いた一方、8月が収穫最盛期の「ピオーネ」など黒系品種の着色条件「夜温24度以下」になかなかならないためだ。
「着色が不十分だと、食味は一緒でも収入が2、3割落ちてしまう。今年は挑戦の年だ」。山坂さんが言った。

ハウス12棟で花弁が黄色い菊「精の光彩」などを栽培する宮本静真さん(42)は、ハウス内を白色の遮光ネットで覆い、15メートル置きに設置した循環扇をフル稼働させている。屋根にも白色の遮光塗布剤を塗っており、数日置きに塗り直す。
ハウス内は何もしなければ外気より4度ほど高くなる。1日、屋根の塗布剤をチェックしてハウス内に戻った宮本さんは温度計を見ながら「何とか36度に抑えられている」と安堵(あんど)した。高さ90センチを超えた菊を見つめ、「一本でも多くお盆に間に合わせたい」と言った。
(佐野太一)