愛媛県東温市の農村型地域運営組織(農村RMO)・奥松瀬川地区農村活性化協議会が、1人暮らしの高齢者から子どもら多世代に食事を提供する「おとな食堂」を始めた。自炊が難しく、家にこもりがちな高齢者が食事や会話を楽しめる場にする。代表で養鶏農家の渡部光右衛さん(76)は「月に1度、ふらっと集まり食事を楽しめる場所にしたい」と話す。
山間部に270人が暮らす奥松瀬川地区。耕作放棄地の増加と農家の高齢化に悩まされ、2016年に農家や住民らがともに地域運営組織を設立。市民農園や収穫祭などのイベント運営で関係人口を広げてきた。23年からは農水省の農村RMO事業の助成金を受け、蜜源作物の栽培やドライフラワーなどの加工品販売に着手している。
地区には1人暮らしや介護中の高齢者が多く、中には毎日の自炊が難しい人や日々の会話がほとんどない人もいる。「食事と会話を楽しめる場を作ろう」と、協議会メンバーの女性たちがおとな食堂の開設を発案した。
世代を超えて交流生まれる
12月に開いた初回のおとな食堂。地元の農家が育てたレタスやタマネギ、卵、女性たち手作りのパンを使ったサンドイッチや野菜スープがふるまわれた。食事をした子どもたちからは「ぜんぶおいしい」「おかわり!」と元気な声があがった。
食堂では、地区に暮らす小学生以下の子どもや保護者らが参加。保護者や高齢者も談笑して食事を楽しんだ。
「1人で食べるより何人かで食べる方がおいしい」と地区で1人暮らしをする森昇さん(68)。普段の食事ではテレビを流すだけで、誰とも全く会話をしない日もある。自炊のための食材の買い出しも、運転免許を返納したら難しくなるため、食堂の必要性を感じている。
2児を連れて訪れた30代の女性も食堂の大切さを感じる。「公園と違い、子どもたちが色んな世代と交流できていい。子どもたちもおじいちゃんおばあちゃんたちが大好きで、今後も利用したい」と語った。
顔合わせ食事、生活の質向上
高齢者向けの食堂開設を支援するNPO法人メリリル(千葉県流山市)によると、高齢者への食事支援は配食サービスが中心で、顔を合わせて食事をする場を作っている地域は少ないという。「誰かと食事を楽しむとコミュニケーションが生まれ、栄養バランスも良くなる。配偶者の死別などを機に食事が難しくなる人は多い。食を中心としたQOL(生活の質)の向上が重要だ」と指摘する。
(溝口恵子)