
19人の園児が通う同園は2013年に同牧場主の孫ら2人を預かる保育園として開園。うしのしっぽは同牧場会長の京村真光さん(71)の子が描いた牛のお尻の絵に由来する。
同牧場では08年から月1回、親子連れを招いて米作り体験など通じて地域の魅力を伝えてきたが、同園園長の齋藤繭子さん(49)や前園長の京村まゆみさんらが「もっと下の世代から地域で見ていきたい」と決意。当時、存続が危ぶまれていた左鐙小学校を残す手段として開園に至った。
町で育つ子を山村で育てられる同園には移住して通わせる親もいたほど反響を呼んだ。入園希望者が増える中、22年には地方裁量型認定こども園として再始動。現在は、津和野町内で7園中3番目に児童数が多い保育園になっている。

雪が舞う2月、登園した園児らが「きょうは牛舎に行ってみよう」と保育士に提案する。山頂の園付近は、携帯の通信が圏外になりやすく、職員はトランシーバーを手に連絡を取り合う。ヤッケを着た園児らは雪が残る斜面を背から下り、牛舎を目指す。牛舎で出会った真光さんを「じいじ」と呼び、牛が鼻で押し出した餌を真剣なまなざしで集め、給餌する。
齋藤園長は「子どもが、近くの畑や牧場で働く大人の姿を見ながら成長する環境は、昔の農村の姿を再現できていると思う。これからも、暮らしと密着した保育を実践していきたい」と笑顔で話す。
全国には地方裁量型認定こども園は87ある。うち長野県飯綱町の認定こども園大地は3ヘクタール以上の土地に水田や果樹、園舎を構える。冬期にはスキーなど行う。鳥取市の認定こども園ぱっかは、馬や自然との関わり合いの中での保育を実践する。
うしのしっぽは、「農業×子育て」という地域づくりの風をいち早く捉えた先駆的な事例だ。地域の小規模校が持つ意義である持続可能な地域づくりを実現するたの主役を育てる場にもなっている。
<メモ>地方裁量型認定こども園
教育・保育、地域の子育て支援を一体的に行う認定こども園は2024年、全国で1万483園ある。そのうち、地方裁量型は1%以下の87園。独自の運営方針を実践する認可外施設などが、こども園として認定を受けた施設が対象となる。