「世界の人に米のおいしさを発信する夢がかなった」と喜びを隠せないのは、青森市の山田正樹さん(62)だ。33ヘクタールで家族3人と水稲8品種を作る。
炊飯器製造大手の象印マホービン(大阪市)が出店するおにぎり専門店に「青天の霹靂(へきれき)」を13日から1カ月間、約1・8トン提供する。同社が出店に先立ち、各地の特産食材のおにぎりを企画するワークショップで山田さんの米に出会ったのがきっかけだ。
山田さんは6代続く米農家。会社員を50歳で退職後、専業農家に転身した時に描いた夢が「自分が作ったおいしい米を世界中に発信すること」だった。農薬や化学肥料にできる限り頼らない栽培方法で食味を追求。2015年から栽培してきた「青天の霹靂」は、19年の「大嘗祭(だいじょうさい)」に献上したほどの品質を誇る。「いろいろな縁に恵まれた。地道な努力を先祖が見てくれたおかげで今がある」
山田さんの「青天の霹靂」は北海道・東北代表の米として使われる。具材は、さけや梅など定番4種に加え、スイスやインドネシアなどの料理4種、北海道と東北の特産品をアレンジした4種の計12種。うち、青森代表の具材はワークショップで企画した、摘果リンゴの漬物とホタテをバターしょうゆで合わせた「帆立りんごバター」だ。
山田さんは「さっぱりとした味わいの『青天の霹靂』は、どんな具材にも合う。世界中の人がおいしいと言ってくれるはず」と胸を張る。提供期間中は田植えの最盛期だが「日帰りでも構わないから万博へ行って、会場で自分の米を食べてみたい」と願う。
(木村泰之)

「何十年、何百年と、日本が過去から受け継いできた在来種は、食の未来にとって大きな財産になる」
そう語るのは長崎県雲仙市で「種の自然農園・岩崎農園」として在来種50種以上を守り継いできた岩崎政利さん(74)だ。放送作家の小山薫堂氏が手がけるパビリオン「EARTH MART(アースマート)」の展示に、野菜や花、種を提供する。「歴史ある日本のすごい野菜を食べたいと思ってほしい」と意気込む。
有機栽培の種採り農家として40年以上走り続けてきた。農園には「黒田五寸人参」や「雲仙こぶ高菜」など県内の在来種の他、宮崎県椎葉村の「平家きゅうり」や江戸東京野菜の「八丈オクラ」といった全国各地の農家が守ってきた種もある。中には、担い手が途絶えた産地から一時的に預かり、数年後にその地の後継者に託した種もある。
「在来種は収量が少ないとか形がふぞろいだとか病気に弱いとか、欠点だらけ」と話す岩崎さん。経営を考えると消えゆくのも時代の流れかもしれないというが、「食文化をつくる鍵として次世代につないでいく価値がある」と力説する。
種をまき、野菜を育てて花を咲かせ、また次の種を取る。どんなに遠い土地から来た種でも、この工程を繰り返すことで20~30年かければ「風土になじむ瞬間がくる」(岩崎さん)。そういった農業の営みの中で、食文化や伝統というものは育まれていく。「私もここ10年ほどでやっと実感した。それが在来種が持つ価値であり役目なんだと」
万博では、“野菜の命としての一生”を見せることで、脈々と培われてきた日本の「食のすごさ」を来場者に感じてほしいと話す。
(島津爽穂)