異常気象や病害で不作に
チョコレートが店頭から姿を消すかもしれない──。原料であるカカオ豆の主産地、西アフリカで異常気象と病害が猛威を振るい、生産量が減少している。国際価格はこの2年で1トン当たり約3000ドルから約9000ドルと3倍に跳ね上がった。注目が集まる代替素材を探ると、カカオを巡る適正価格の問題に気付かされた。
チョコは日本人の定番スイーツとして根強い人気だ。全日本菓子協会によると、チョコの小売額は菓子全体の2割弱となる約6300億円でトップ。しかし、不作や高騰を受け、菓子メーカーはカカオの含有量を減らすなど対応に追われる。
そんな業界に“根っこ”から革命を起こす商品が登場した。開発したのはゴボウ加工品などを手がけるあじかん(広島市)。カカオを一切使わず、国産ゴボウを主原料としたチョコ風味の菓子「GOVOCE(ゴボーチェ)」を販売する。
口溶け良く焙煎


「植物性の油脂に焙煎(ばいせん)したゴボウを混ぜたら、どこかチョコに似たものができた」。開発責任者の龍地泰明さんはそう語る。焙煎の温度と時間を工夫し、雑味を抑えて口溶けの良い味わいを実現した。
同社によると、焙煎ゴボウとカカオには共通する香気成分が8種類も含まれており、科学的にも類似。ポリフェノールや食物繊維も豊富で、健康志向の高まりとも相性が良い。
ゴボウの需要を開拓し、農家所得の向上にもつながるゴボーチェ。1袋(12個入り)希望小売価格600円(税別)。第2弾も開発中で、より本格的なチョコの風味と手頃な価格帯を目指している。
他社でも開発が進む。イオンはドイツ企業と連携し、ヒマワリの種を使用した「チョコか?ウィズビスケット」を展開。不二製油はエンドウマメやキャロブ(イナゴマメ)などを使った業務用「アノザM」を作った。


持続的な価格へ
「代替素材の開発は今後も進む。ただ、これまでのカカオが安過ぎた」。油脂の基礎研究から40年以上チョコについて研究する“チョコレート博士”こと広島大学の佐藤清隆名誉教授が言う。
主産地のコートジボワールやガーナは途上国で、生産者の立場が弱く「価格高騰の恩恵を十分に受けられない」と強調。病害対策でカカオの木の伐採を進めたことで、再び収穫可能になるまで数年かかるとし、生産者の収入が一層落ち込む可能性も指摘した。
佐藤氏は「今は高過ぎるが、将来的に持続可能な適正価格に落ち着くことが必要」と指摘。生産者の意欲をそがず、消費者も納得できる価格でなければカカオの未来は守れないと訴える。

<取材後記>
「カカオの代わりにゴボウを使った“チョコ”がある」。そんな話を聞いた時、耳を疑った。だが実際に手に取ってみると、あの甘い香りと口溶け。驚くほど違和感がなく、「これで本当にカカオ不使用なの?」と、同僚も口をそろえて驚いた。
コンビニやスーパーなど日常に溶け込むチョコ。その裏では、生産者たちが異常気象や病害に苦しみ、価格の乱高下に翻弄(ほんろう)されている現実がある。
代替素材の開発は技術の進歩として心強い。同時に「本物のチョコ」を作り続けられる未来も守りたい。そのためには私たち消費者が、産地の“甘くない現実”に目を向けることが何よりも大切だ。これは店頭価格が上昇した米にも通じることだと感じた。
(徳橋太郎)
