東京の在来ワサビ残そう 「三鷹大沢」DNA鑑定でルーツ判明 宅地化で激減、絶滅の恐れ
東京都三鷹市の「大沢の里古民家」に残る「三鷹大沢わさび」。国内ではほとんど残っていない在来種ということが、DNA鑑定で分かった。江戸時代から続く貴重なワサビは、厳しい環境でも生き延びてきたが、株の老化が進む。種の存続に向けて市などは、健康で若い近縁種との交配を検討。地域では復活を望む声も出てきた。(木村泰之)
江戸から昭和へ連綿
三鷹大沢わさびの始まりは約200年前。大沢地区の豊富な湧き水に着目した伊勢(現在の三重県)出身の箕輪政右衛門が、郷里の五十鈴川上流で自生していたワサビを、三鷹の箕輪家に婿入りした際に持ち込んだこととされる。政右衛門が、すしの人気で需要が高まっていたワサビの販路を開拓。三鷹市や調布市などで栽培が広がった。明治~昭和初期をピークに、築地や神田市場に出荷された。
約35年前までワサビを生産していた箕輪宗一郎さん(97)は「4~6月に取れる大沢のワサビは1カ月に約1万本出荷した。小さくても味が良く、高く売れた」と振り返る。
一方で1960年代の宅地・道路開発で湧き水が激減。三鷹大沢わさびは「古民家」に残る約800平方メートルと、箕輪さんが栽培していたワサビ田にしか残っていなかった。いずれも市や都、ボランティアが管理するが収穫はしない。箕輪さんは「栽培種も植えたが、猛暑や少ない水でも残ったのは大沢のワサビだけ。再び味わってもらいたい」と願う。
母系は岐阜の野生種
岐阜大学応用生物科学部の山根京子准教授によると、野生種と栽培種との中間的な在来種は、農家らが野生種を育成したものだ。日本各地にあったが、大きく見栄えの良い「真妻」「だるま系」「島根3号」に由来する栽培種に置き換えられていった。だが三鷹大沢わさびは、いずれにも似ず、在来種の一つだと分かった。
山根准教授は、伊勢神宮への献上記録が残る地域のワサビを調査。結果、母系のDNAが、岐阜県の野生種と一致した。父系は現存しない古い栽培種だった。このワサビは、一つの株から株分けして増やしたことも確認できた。ただ株の老化が進み、花や花粉が少なくなっている。このままでは絶滅する恐れが高い。そこで三鷹市は山根准教授と協力して健康な近縁種との交配を検討している。
同じ遺伝子型の植物が同じ環境で育っていると、病気が起きたら全滅する恐れがある。そこで地元の都立農業高校の生徒も保全に立ち上がった。同校は昨年、古民家にあった20株ほどを譲り受けた。部活動として生徒が調布市にある農場で管理する。今年は17人が週に1度、水温の確認や水路の清掃などを行う。3年生の並木瑠香さん(18)らは、繁殖の研究なども進める。
地元そば店復活期待
同校で貴重なワサビが栽培されていることを受け、地元のそば店も復活を望む。深大寺門前のそば店主・浅田修平さん(74)は「株が若返り、地元産のそば粉とワサビを提供できれば深大寺そばの価値も高まる」と話す。
山根准教授は「栽培種が病気になった際、若返った三鷹大沢わさびを交配すれば難を逃れる可能性がある」と指摘。このワサビの保全が、環境保全型農業や遺伝資源の保護につながる模範例になることに期待を寄せる。
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