農研機構×町工場集団 急傾斜攻略で最強タッグ 草刈りロボ
宙に浮いた開発
農研機構と共同開発したのは、ドラマ「下町ロケット」の舞台となった東京都大田区の町工場3000社が参加するモノ作り合同会社「I-OTA」(アイオータ)。「一つ一つの工場は小さいが技術を持ち寄れば大きな仕事ができる」を合言葉に2018年発足した企業集団だ。
一方の農研機構は、中山間地の課題解決に取り組む西日本農業研究センター(広島県福山市)が同年、農家の高齢化を受け、傾斜地用草刈りロボットの開発に着手した。従来機は200万円前後と高価な上、200キロ前後と重く、横転事故もあった。「簡便で軽量なロボ」を求める声が強かった。
センターは農機具メーカーとの連携を模索したが、自社商品との競合が懸念され、開発は宙に浮いた。
動きだした構想
農研機構は19年3月、さいたま市で開いた農業機械技術クラスター総会で「農業の知見はないがモノづくりには自信がある」と発表したアイオータの西村修さん(50)と淺野和人さん(47)に打診。2人は「やらせてほしい」と即答した。
ロボの原案はセンターの菊地麗研究員が長年温めていたもので、斜面上部に設置した支柱2本につないだワイヤロープを伝って草刈り機を動かすことで、自走のためのエンジンを不要にし、滑落も防ぐ画期的な構造だった。スマートフォンで操作する使いやすさと1人でも持ち運べる手軽さを目指した。
工場などの経営者でもある西村さんと淺野さんは、本業の傍ら、アイオータの加工技術の粋を集めて製造に着手した。
急斜面で接地できる重量、キャスターの可動構造、制御法などを精査し、平地での作業も可能な機能を取り付け、安全性能や刈り残しのない動線の工夫、埋設不要なくいの開発、より遠くから操作できる無線操縦式への変更などを行い、全長65センチ、幅68センチ、重量25キロの新型ロボを完成。100万円を割る80万円前後の価格を実現し、使用状況に応じたカスタマイズも可能にした。
中山間の救世主
21年11月、東京・青海で開かれた農業展示会「草刈り・除草ワールド」。国内外の新製品や新技術が一堂に集まる中、満を持して出展したブースには多くの人々が訪れた。長野から来た果樹農家は「安くて軽くて使い勝手も良さそう。草刈りロボのイメージが変わった」と語った。
現在、本体を覆うカバーのデザインと商品名を選定中だ。一方、世界的な半導体不足のあおりを受け、春の出荷台数は限定的となる見込みだ。
農業の専門家と門外漢が手を携えたことで、中山間地の悩みに応える農機が生まれた。菊地研究員は「町工場と開発した製品の市販化は初めて。互いの強みを発揮できた」と自信を見せる。
淺野さんは「山がちで湿潤な日本は雑草との戦い。高速道路や鉄道ののり面、河川敷などでも草刈りロボは活躍できる」と汎用性を説明し、西村さんは「きめ細かなニーズに応えるのが町工場の本懐。3000の技術で農業の未来を開く製品を手がけたい」と次を見据える。
アイオータへの問い合わせは、メールinfo@i-ota.jp。
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