農と食は国と地域の元気の源だ。全国各地で県・農・商工がタッグを組み、課題を乗り越え、農産品・加工品の付加価値を高め、需要開拓、輸出拡大に取り組んでいる。気鋭のマーケティングコンサルタントの西川りゅうじん氏が、地域から日本を元気にする戦略を官民のトップリーダーに聞くスペシャル対談企画「地域元気化計画」。今回は高野山・熊野三山などが世界遺産登録20周年を迎えた“フルーツ王国”和歌山県をけん引する3人が熱く語る!
和歌山県知事
岸本周平氏
日本の食文化の聖地 わかやま
「和歌山が最高だと子どもたちが思う未来を!」をキャッチフレーズに掲げる本県にとって、農業をはじめ豊かな自然を生かした第一次産業こそが看板です。そこで働く大人がカッコよく輝く姿を見せることで、子どもたちが誇りを持てる地域を目指しています。
和歌山県は本州最南端に位置し、温暖な気候から果物の栽培が盛んで、生産量ではミカン・梅・柿・ハッサク・ジャバラ・イチジク・サンショウが全国1位、ネーブルオレンジは2位、スモモ・伊予カン・キウイフルーツが3位であるなど名実ともに世界有数の「フルーツ王国」です。
ただ他の地域や業種と同じく後継者不足、人手不足が深刻な課題になっています。
しかし、果樹・野菜・花卉など収益性の高い「儲(もう)かる農業」には人は集まるのです。 一方、農業は栽培技術に加えて、経営、経理、販売戦略にいたるまで多岐にわたる能力が求められる仕事です。それゆえ、新規就農者の定着には時間がかかります。
そこで、若者に農業法人に就職してもらい、週休2日で働きながら、マーケティングや資材調達、栽培などを順次経験した上で独立する「のれん分け」方式のキャリアパスの確立を推進したいと考えています。
令和6年は「熊野三山」「高野山」など「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録されて20周年ですが、紀州和歌山は「日本の食文化の聖地」であると自負しています。
金山寺味噌(みそ)、そこから生まれた醤油(しょうゆ)、6次化産業のパイオニアともいえる梅干しに象徴されるように、農業と食文化の融合による産業振興は当地の真骨頂です。
これを温故知新で生かし、和歌山県は日本で初めてワーケーション(ワーク+バケーション=仕事と休暇を組み合わせた働き方)を導入した地域であることから、新たな取り組みとして「梅ワーケーション」を実施。
都市の勤労者に梅の収穫体験の機会を提供することで関係人口を増やし、二拠点居住や将来的な移住につなげる計画です。
マーケット開拓としては「上質」をコンセプトに海外市場への輸出に注力しています。 香港では桃が1玉1000円でも飛ぶように売れ、3年目となったベトナムへのミカン輸出も好調です。さらに米国市場の開拓も進めつつあります。
「大阪・関西万博」を機に“霊性の大地”である本県ならではの「上質が詰まった和歌山」を世界に向けて、さらに発信に努めてまいります。
和歌山商工会議所会頭
竹田純久氏
紀州の起業家精神を発揮
和歌山商工会議所は、官民、および、農商工で連携して、和歌山県の農業と食を応援しています。和歌山県は全国一の生産量を誇る各種のフルーツなど豊かな農作物に恵まれています。
フレッシュな食材のみならず、実はそれらを使った加工品にも国内外に誇れる素晴らしい食品があります。
例えば、サンショウは生産量日本一で全国の約6割のシェアを占めています。このサンショウを使った香味油はマグロのカルパッチョやパスタ、お肉に合うと県外の方々にも好評です。
また柿も日本一で全国シェアは2割です。和歌山といえば柿の葉寿司(すし)が有名ですが渋柿をつるして作った干柿も絶品です。生ハムと一緒に白ワインでマリアージュを楽しんでみてください。
他にもミカンの花の蜜から採れる、ほのかに柑橘(かんきつ)の香りがするプレミアム蜂蜜など、知る人ぞ知るグルメ垂涎(すいぜん)の品々が目白押しです。
商工会議所では和歌山県産の農作物を使った商品の情報発信、販路開拓、資金調達、大消費地でのPRやビジネスマッチングなどをサポートしています。
令和6年は東京の「グルメ&ダイニングスタイルショー」に出展し、県産の大きなシイタケを使った「椎茸(しいたけ)バーガー」が反響を呼びました。
大阪での「通販食品展示商談会」では県産のあんこと紀州レモンで作った「あんバターサンド」が人気を博しました。これをきっかけに東京駅の「グランスタ東京」への出店が決まったのはうれしいニュースです。
開催間近の「大阪・関西万博」は和歌山県にとって大きなチャンスです。 万博を機に来県したインバウンド観光客に、「越境ECモール」と提携してQRコードを配布し、帰国後も継続して県産品を購入できる仕組みを構築しました。
令和7年4月には会場内で開催される「和歌山ウィーク」に出展し、県産品を世界にアピールしたいと考えています。
世界遺産の高野山・熊野古道が欧米人を中心にパワースポットとして注目を集め、近年、外国人観光客の宿泊が増加しています。
和歌山県には和菓子や清酒、旅館など食に関連する長寿企業が数多くあります。 また、除虫菊から蚊取り線香を創った金鳥、ヤマサ醤油、江戸時代にはミカンや材木を江戸に運んで財を成した紀伊国屋文左衛門を育んだ地です。
時代の変化に適応してきた紀州の商工業者の起業家精神を胸に、大きなポテンシャルを秘めた和歌山県の農業と食に関する産業を温故知新でさらに応援して行く所存です。
JA和歌山中央会会長
坂東紀好氏
オール和歌山で販売力強化
令和7年4月、わかやま、ながみね、紀の里、紀北かわかみ、ありだ、紀州、紀南、みくまのの8JAが一つになり、1県1JAとして新たに「和歌山県農業協同組合」が発足します。合併後の組合員数は約19万2000人で全国3位、販売品取扱高・貯金残高は全国4位の全国有数の規模になります。しかし、統合は目的ではなく手段、ゴールではなく新たなスタートです。
温暖な気候に恵まれ、和歌山県は「果樹王国」として発展を遂げてきました。
全国シェア2割のミカンや7割のハッサク、2割の柿、7割の梅、6割のサンショウ、2割のイチジクをはじめ日本一の生産量や、トップクラスの農作物を挙げれば枚挙に暇(いとま)がありません。
これらはひとえに地域の生産者の強い絆と、先人たちが磨き上げてきた技術があってこそ実現したものです。
JAの原点に立ち返れば、一人一人が弱者だからこそ組合を作り、互いに支え合ってきました。この想いを胸に地域の豊かな有形無形の資産を継承し、さらなる発展成長へとつなげることが私たちの使命です。
合併によって、重複する業務や機能を集約して、合理化や効率化を進め、経営基盤を強化します。また、果樹・野菜・花卉(かき)を中心とする全国有数の販売高と知名度を生かした品目間・産地間リレーの実現を目指します。
一方で今までのJAの各地域には地域本部を設置。各地の個性と声を大切にしながら、単なる栽培指導ではなく組合員と伴走できる営農指導員を育成し、生産者に寄り添う支援体制を充実させたいと考えています。
しかし、いくら頑張っても消費者の理解なくして農業の発展はありません。
私の地元JAでは、市民と農をつなぐ「農業体験農園」を開園し、和歌山大学で寄付講義を開講してきましたが、消費者が土に触れ、作物の成長を見守り、ともに収穫の喜びを分かち合う。そうした体験を通じて、農業が育む豊かさを実感してもらうことの大切さを再認識しました。
また、異分野との御縁を積極的に求め、一歩踏み出すことも重要です。県産の新ショウガを使って農商工連携で開発した「わかやまジンジャーエール」は全日空にも採用されるなど成果を上げています。
農業は私たちの生業であるだけではなく、国民の食と生命を守る“いのちの産業”です。
これまでの各JAの取り組みを生かしつつ、新生JAは「オール和歌山」で力を合わせ、全員野球で販売高600億円の果樹園芸産地を堅持すべく心新たに邁進(まいしん)してまいります。
<Profile>
マーケティングコンサルタント・西川りゅうじん
1960年生まれ。一橋大学卒業。マーケティングのエキスパートとして産業と地域の元気化に努める。「愛・地球博」のモリゾーとキッコロや、「六本木ヒルズ」、全国的な焼酎ブームの仕掛け人として知られる。各地でJA研修会の講師を務め、農産品のブランド化に携わる。経済産業省、厚生労働省、国土交通省、観光庁等の委員を歴任。