「おいしい」の声に歓喜
香川県の60代男性野菜農家は、自分のミニトマトを「『とてもおいしい』と言ってもらったことがうれしかった」と話す。「暑さ対策に苦労した」今夏を振り返りつつ、「自分にとって忘れ難い一言」とかみ締める。一言を聞いたのは病院。年始早々、目の手術をした後、経過観察で通院していた時の待合室だった。
看護師に「ミニトマトを栽培しているんですね」と言われた。なぜ知っているのか聞くと「スーパーで名前入りのパックを購入した」という説明と「とてもおいしかった」との言葉を送られた。「これからの励みとしたい♪」と喜ぶ。

ブドウや梨を栽培し「全身全霊をもって臨んだが、過酷なまでの異常気象にうちひしがれた」と打ち明ける。そんな中でも、ブドウ園地の水分維持や梨の袋掛けなどを徹底。無事、収穫にこぎ着けた。

害虫・高温に負けず手ごたえ
「地域を挙げてのカメムシ対策が功を奏し、被害が減って米の収量が多くなったことが、とてもうれしかった」。愛知県の50代男性水稲農家はそう話す。これまでカメムシ被害に苦しんできただけに喜びも大きいという。米価が上向いたことも歓迎する。今夏は30度以上の日も多く、「水稲の管理は本当に苦労した」。そうした中での米価浮揚に「資材費も高騰していて経費もかかっているが、生産意欲がわいてくる」と話す。

父親の高齢を機にサラリーマンを辞めて稲作りを始めて4年目。今年大変だったのは「猛暑に負けない水田の管理」。昨年は猛暑で白未熟が多発し、「失敗を繰り返さないよう基本に立ち返った」。真夏も昼夜を問わず入排水などに労力を費やし、「全量1等の格付けに報われた様な気がする」と実感する。

初収穫も…食害に苦しむ
愛媛県の60代男性果樹農家の今年うれしかったことは「媛小春の初収穫」。「媛小春」は県育成の中晩かん品種。親の園地を引き継ぎ、かんきつを栽培する中「初めて自分で選んだ品種」なだけに喜びもひとしおだったという。苗木から導入し、施肥などに工夫を重ねながら5年目の今年1月、収穫を迎えた。
ただ、野生動物による食害も目立つ。収穫期の1月は「半分近くがやられた」。今年は収穫前の11月に被害が見付かった。今年大変だったことに「鳥獣による被害」を挙げ、「園地をよく見回り、なんとかして守りたい」と話す。

初孫に喜び、趣味楽しむ
東京都の50代男性兼業農家の今年うれしかったことは「初孫誕生」。複数の野菜を栽培していて、初孫には「うちで作ったヤツガシラを正月に贈りたい」と願う。自身の娘に子どもが生まれたのは6月。娘が結婚した当初は「ちょっとさびしかった」と振り返る。今は初孫誕生に喜び「私に似ているとよく言われるので、余計うれしい」。
ヤツガシラは親芋と子芋が分かれず塊になり「子孫繁栄や八=末広がりの縁起物」として重宝される。「孫に幸せが訪れてほしい」との思いを込める。

父の急死に伴い、仕事と並行して2021年から野菜作りを受け継いだ。夏の間はメロンやアスパラガスを栽培。マラソンのシーズンになると、家族と一緒に現地に出向き「家族旅行も兼ねて楽しんでいる」と話す。


今年1番うれしかったこと・大変だったこと
加藤瑞希さん(米麦生産)
猛暑乗り越え米価上昇 「頑張った成果」

田植えは暑さに加えて、苗の重さも結構こたえますね。作業中、田植え機に都度補充する苗のトレイは、なかなか重量があるので、筋肉痛になりながらやっています。

大変な年でしたけど、米の価格が上がったのは良かったです。暑い中、頑張ってきた成果と思える価格になりました。自分用のご褒美も買いました。普段は高くて手を出さなかったものですが、米価が上がったので挑戦しました。今後どうなるか分かりませんが、米作りが続けられるよう、これからも今の価格水準であってほしいです。
今年は、新しいトラクターに初めて使わせてもらいました。父が101馬力の機種を「使ってみたら」と言ってくれたのがきっかけでした。最初は、わくわくプラス不安みたいな気持ちでした。使っているうちに「すごいな」と感じることも多くありました。耕運作業の速さ、すき込みの仕上がりは全然違いますね。

来年は、害虫の対策に力を入れたいです。カメムシは共同防除だけでなく、追加防除を含めて、いろいろ対策をしないといけないと思っています。ジャンボタニシの被害も出ていて、まずは防除を徹底し、水管理にも気を付けたいです。あと、機械の中で唯一、コンバインはまだ圃場で使ったことがないので、いずれ使いこなせるようになりたいです。
母としては、息子の成長をこれからも楽しみにしています。来年からは家族以外と触れる機会も増えるので、親としてサポートしながら、より成長した姿が見られるのを期待しています。
加藤さんが農作業に出ている熊谷市は2018年7月に、41・1度を観測。現在も7月の国内最高気温として記録されている。加藤さんが農作業の手伝いを始めた年だった。同市は今年も7月に40度を観測。さらに、35度以上の猛暑日数が46日となり、昨年の45日を超えて過去最多となるなど、過酷な夏だった。
かとう・みずき 1994年生まれ。会社員の夫と2歳の息子を育てる。配送業を退職後、2018年から埼玉県熊谷市で米12ヘクタール、麦14ヘクタールを生産する父を手伝う。
南條匠極さん(宮城県農業高校)
学校農ク全国大会で最優秀

粗飼料の生産は、実家のような肥育牛経営だけでなく、繁殖牛経営を支えることになると思うんです。そう考えるきっかけになったのは、今年の春、もと牛を仕入れるため父と一緒に行った子牛市場で聞いた話でした。
市場にいた知り合いの繁殖農家の方に「最近の子牛価格って、実際どうなんですか」と尋ねると、「人件費とかを考えると、利益はほぼないんだ」とのことでした。
わが家の肥育を手伝い、もと牛を生産する繁殖農家がいないと肥育農家は成り立たないことは分かっていました。何ができるか考えた時、良質な粗飼料を供給できれば濃厚飼料のコストカットができるんじゃないかと。わが家の粗飼料生産をさらに充実させて、多くの繁殖農家に使ってもらいたいと思うようになりました。
「粗飼料生産への思いが伝わればいいな」と思って校内の意見発表に参加したら、最終的に日本学校農業クラブ全国大会への出場が決まり、最優秀に選ばれました。これも今年うれしかった出来事です。
全国大会は「やるからには、てっぺんを目指したい」という気持ちで、発表の仕方も工夫しました。下を向かず審査員の目を見て話すようにしました。先生から「間違えるくらいなら手元の原稿を見てもいいんだよ」って言われたんですけど、それは許せなくて「完璧に覚えて伝えたい」と思って臨みました。
父と祖父には、最優秀が決まった直後に電話して「日本一になったよ」って報告しました。二人とも「やったな」と喜んでくれました。
今年は、天候不順の影響で稲わらの収穫が遅れたのが、わが家にとって大変な出来事でした。家族や地域の支え合いの大切さを改めて感じました。
高校卒業後は、実家を継ぐ前に肉の知識を深めるため、全国食肉学校に進学したいと考えています。
来年は学校農業クラブの全国大会にもう一度、挑戦したいです。今年準備から経験して「牛農家になった時、必ず役に立つ」と感じました。自分の中では、発表したいことがあるんです。今回最優秀になったことで、2冠への切符を手にしたと思っています。チャンスがあるならもう一度、全国大会の最優秀を狙いたいです。



日本学校農業クラブ全国大会は「農業高校の甲子園」とも言われ、今年で75回目の開催。意見発表は南條さんが出場した1類(農業生産・農業経営)の他、2類(国土保全・環境創造)、3類(資源活用・地域振興)があり、2年生で最優秀となったのは1類の南條さんだけ。2、3類は3年生だった。
なんじょう・なるみち 2008年生まれ。宮城県農業高校農業科2年。実家は宮城県角田市で3代続く肥育牛農家。4代目を目指し、「仙台牛」を手がける祖父や父を手伝う。
宮内義光さん
陸上で100歳世界記録

65歳でマスターズの日本記録を出して以来、陸上を続けています。友人に誘われたのがきっかけでした。20代の頃は仕事先の陸上部に入っていた時期もあったのですが、40年近くやっていない状態でした。
僕は「なんでもやるなら徹底してやらんと」と思う性格なんです。人間、できないことはない。上手、下手はあるけど、やればなんでもできる。「人ができないことがやりたい」という気持ちもあって、陸上に打ち込むようになりました。
スタミナの源は、自分の畑で栽培したニンニクです。月1回、自分で焼いて作り置きをして、毎晩一片ずつ食べています。京都の大会にも持っていきました。
ピーマンやトマト、タマネギなども作ります。農業高校出身なので、肥料のやり方などの学んだ経験が生きています。大事にしているのは元肥です。地元の牛ふんや油かす、鶏ふん堆肥を使います。野菜作りでも「「やるなら徹底してやる」を心がけています。

今年大変だったのは、やっぱり夏の暑さですね。8月に宮崎で開かれた九州マスターズは、400メートルは走ったのですが、あまりの暑さから1500メートルはやめておきました。こればかりは、自分じゃどうしようもできない。僕は暑さには強い方だけど、長く続けてくには、無理はしないっていうことですね。
畑仕事もこの夏は大変でした。サトイモが暑さにやられてしまった。夏はもう、昼間に作業はせず、朝か夕方にやるようにしました。農作業は野菜に「元気か。水は大丈夫か。肥料は足りているか」と話すような気持ちでやっています。ただ、植えるだけでなく、よく様子を見ながら世話をしています。
来年もまた元気で走り続けたいですね。マスターズの世界記録は、年齢が5歳きざみなので、次は105歳。できたら105歳まで走りたい。これからも無理せず、畑もやりながら陸上を続けたいです。

宮内さんは今夏、マスターズの1500メートル世界記録を更新後、11月の鹿児島大会で16分01秒54という新たな世界記録を樹立。800メートルは今夏、8分09秒74の記録を残した。800メートルの100歳の記録はなく、宮内さんが新たな記録を作った。さらに鹿児島大会で400メートルの世界記録を更新した。
みやうち・よしみつ 1924年生まれ。終戦後、鹿児島市内の高校に入学。その後、鹿児島市役所で、水道関係の仕事に携わる。現在は5アールで野菜を作る。
(聞き手・柘植昌行、写真・鴻田寛之、染谷臨太郎)