米の需要拡大へ期待が高まる輸出は、安価な外国産との競合など課題も多い。近年、日本産の販売量が急増するカナダでは、米の総合メーカー・東洋ライスが産地JAと連携して販路開拓に挑んでいる。現地すしチェーンとのブレンド米の共同開発や、日本食レストランの料理人への売り込みなど多彩に提案する。米の輸出を広げるヒントを探った。
カナダ国内に展開する「Hello Nori(ハロノリ)」は、人気急上昇中のすしバーだ。店はコンクリートと木を組み合わせた近代的な内装で、シェフがカウンター越しにサーモンやトロ、ロブスターなどのすしを握る。価格は5種セットで3000円強。

厨房(ちゅうぼう)には、日本メーカーの炊飯器が並び、炊きたてのご飯でしゃりを作る。使うのは東洋ライスと共同開発した日本産100%のブレンド米だ。トップシェフのジェイ・プゴンさん(35)が、「これがオリジナルのハロノリブレンドだよ」と見せてくれた。まるでウイスキーのように、ブレンド技術によって米にも個性を生み出せると誇らしげだ。

ジェイさんらハロノリのスタッフは昨秋、ブレンド米開発のために、日本の東洋ライスの工場を訪れている。同社スタッフと2日間かけてブレンド試験を実施。10種近い国産銘柄米の比重を細かく変えながら、長野県産「コシヒカリ」7割、同県産の他銘柄3割という最適の組み合わせにたどり着いた。「味度メーター」の高い数値に手ごたえを得た。カナダの店で実際に使う酢との相性、すし用に硬めに炊くための加水量もチェックした。
東洋ライス側の「共同開発商品をつくれば、簡単には“離れない”取引先ができる」(牲川秋生輸出部門マネージャー)とした狙いは奏功した。同社は今年度、カナダへの米輸出量は100トンを計画するが、店舗を急拡大するハロノリがその大半を占めている。
日本産米のカナダへの2023年輸出量は約1600トンで、前年比4倍に急増。24年も5割増とハイペースを維持する。しかし現地スーパーを訪れると、カリフォルニア産や中国産、ベトナム産など安価な米が売り場を占有し、日本産米はあまり多くない。
米の販売先として期待されるのは、外食や中食だ。東洋ライスはカナダでのPRの舞台として、トロントで11月中旬に開かれた「和食まつり」を選んだ。現地の日本食レストラン料理人らが日本産食材を使ったコースメニューを提供する。

来場客の参加費が1人300カナダドル(約3万3000円)と高額になるイベントの公式米には、長野県産「コシヒカリ」を原料米に、機能性や栄養価を高めた東洋ライスの「金芽米」が採用された。消費者の知名度だけでなく、プロ料理人から支持の広がりを期待した。
イベントはすしの調理を実演するスタイルで、料理人へ米について尋ねると「粒がしっかりして、いい具合だね」など評判は上々。原料米の供給産地からJA全農長野やJA上伊那の関係者が駆け付け、PRブースで試食を提供した。
主催したカナダ日本レストラン協会の木村重男会長は「日本産米の品質がどう違うのか、明確に伝えられる人はまだ少ない。素材にこだわりたい料理人に向けたアピールが大切だ」と期待を寄せた。
(宗和知克)