[ニッポンの米]米穀店に再注目 産地、品種特性…価値伝える“提案力”光る
東京都台東区にある老舗の米穀店・吉田屋は昨夏以降、来客数が増加傾向だ。5代目の小林健志さん(41)によると、スーパーの品切れで米が買えなくなった客が米穀店に来るようになった。2024年産米の供給開始でスーパーにも米が並び始めたが、「多くの客がリピーターになり、現在も店に通ってくれる」(同)という。
同店が扱う24年産米の価格は1キロ当たり1000円前後で、スーパーの店頭価格(同800円程度)よりも高い。それでも同店で米を買う客が増えた。小林さんは、「米の価値を正しく伝えることを大切にしている」と力を込める。
接客では会話を重視し、産地の品質向上に向けた取り組みや、「卵かけご飯に合う銘柄」といった客の嗜好(しこう)に合わせた提案に注力する。「(産地や品種で)こんなに味が違うと思わなかったと驚く人もいる」(同)など高い評価を獲得する。
千葉県の米穀店・シブヤも、昨夏以降に販売数量を伸ばしている米穀店の一つ。同社は減農薬や有機栽培といった慣行品より価格が高い米を多く取り扱っており、栽培履歴や生産者情報を開示した“生産者の顔が見える米”として売り込む。澁谷梨絵代表によると、米価上昇で慣行品と高付加価値品の価格差が縮まる中、「こだわりの米に関心を持つ客が増えた」という。
米の店頭価格上昇を巡っては、消費者の米離れを加速させる懸念があるとした見方が根強い。一方で、流通経済研究所の折笠俊輔主席研究員は、「これまでスーパーで米を買っていた人が米穀店に関心を持つようになった流れは、産地や米の魅力を消費者に知ってもらうチャンス」とみる。