有機農業の面積は、農水省によると直近の22年度で3万300ヘクタールで、ここ10年間で1万ヘクタールほど増加。特に20年度以降は3年連続で1000ヘクタール以上増えており、拡大ペースが加速している。
「流れが変わりつつある」こう指摘するのが、有機農産物も扱う青果仲卸の大治だ。これまで有機農産物は食の安全や健康のために購入するイメージがあったが、農業での環境負荷低減を目指す「みどりの食料システム戦略」が21年に策定され、国が有機農業を推進する姿勢が明確になった。同社の本多諭代表は「個人レベルにとどまらず、環境保全などの社会的な意義も有機に備わってきたことは大きい」と話す。
同社は03年、東京都中央卸売市場大田市場内の事業者では初めて、有機農産物の取り扱いを始めた。段ボール箱で出荷される有機農産物をスーパーなどで販売できるよう、袋に小分けして「有機JAS」の認証マークを表示できる認定を取得。北海道から沖縄まで全国の産地から仕入れており、多品目を小ロットずつでも注文できることを強みに、今では関東のスーパーを中心に150店舗以上に供給する。

一方、有機農業の面積が耕地面積に占める割合は0・7%とまだわずかで、50年までに25%とするみどり戦略の目標は遠い。同社の取扱高に占める有機農産物の割合も、増加傾向だが2%ほどという。農水省の調査では、有機食品の購入先(複数回答)は86%がスーパーと突出して多い。本多代表は「生産者は売り先として、有機専門業者や消費者へ直接販売を想定していることが多い。スーパーで手軽に買いたい消費者とのミスマッチが起こっている」とみる。
そこで、有機農産物の流通方法を慣行品に近づけようと動き始めた。同社が22年に大田市場の仲卸やスーパーなどと、卸売市場の流通網を有機農産物でも活用するための協議会を設立。現在は宅配便で直接取引されコストがかさんでいるが、産地から市場を経由して小売りへ慣行品を運ぶ既存の市場便に混載し、輸送費を慣行品並みに下げることを目指す。市場にはスーパーのバイヤーも集まるため、有機農産物が目に触れる機会が増える利点もある。
本多代表は「慣行品と同じ土俵に立てるようにすることで、有機農産物を手ごろで見つけやすくしていきたい」と意気込む。
(本田恵梨)