
ジンは穀物を蒸留して原酒を造り、ネズの実など植物由来成分を加えて風味付けをする蒸留酒。日本洋酒酒造組合によると、加盟酒造メーカーのジン出荷量が増えており、10年で約4・8倍になった。増加の背景には風味付けの素材で違いを打ち出しやすいことや、発酵や熟成をする設備が必要なく参入しやすいことなどが挙げられる。飲食店での取り扱いも増え、グルメサイトを運営するぐるなびが2024年に世相を最も反映したグルメ「今年の一皿」の準大賞に選ぶなど注目が集まる。
未活用を生かす

エシカル・スピリッツ(東京都台東区)は、未活用の素材を使ったジンを製造・販売する。20年の設立以来順調に売り上げを拡大。各地の農産物使用や企業とのコラボ商品も展開。世界的な酒類品評会で受賞歴もある。主力商品「LAST(ラスト)」シリーズは酒かすを蒸留して作った焼酎を原酒に使用。酒かすならではの華やかな香りをジンに生かす。同社の最高蒸留責任者を務める山口歩夢さんは「まず『おいしい』と感じてもらうことが大事。その後取り組みや素材に興味を持ってもらうという、素材を生かした無理のないアップサイクルをしている」と話す。
訪日客にも訴求

北海道長沼町のJAながぬまは24年9月、特産品のトマトを使ったジンを発売。トマトの甘味とうま味を感じる爽やかですっきりとした味わいに仕上げた。若い世代にも楽しんでもらいやすく、幅広い素材を使用できる点でジンが選ばれた。昨年9月の発売以降600本生産し、今年2月末現在で約20本の在庫限りと好調。次は6月にトマトの出荷が始まり次第販売する。新千歳空港での売れ行きが良く、訪日外国人からも好評という。今後他の農産物で第2弾を開発予定。JAながぬまの波川浩己営農部長は「生産者部会と協力し、ジンを通じて特産品のトマトの魅力を広め、一層の生産意欲向上を目指す」と話す。
国産酒類に詳しい酒類総合研究所(広島県東広島市)の向井伸彦さんは「日本ならではの素材で香り付けすることは世界に向けてアピールポイントとなる」と語る。
(森井千尋)