正月の祝い膳 餅なし文化でもてなす 主役を飾る身近な食材
日本三大秘境といわれる徳島県三好市祖谷地方。同地方には餅を入れない「うちちがえ雑煮」がある。サトイモ「八つ頭」やジャガイモの在来種「ごうしゅいも」、縄で縛って持ち運べるほど硬い岩豆腐を十字に盛り付ける。刀が打ち違えているように見えるため、このような名前が付いた。
同地方の東祖谷に住む都築麗子さん(76)はうちちがえ雑煮の由来を「平家の落人が考えたのではないか」と話す。壇ノ浦の戦いで亡くなったとされた安徳天皇と平教経(国盛)は実は影武者で、一行は同地方に逃れて平家再興の望みをつないだという平家伝説が、同地方では語り伝えられている。
同地方は傾斜地が多く水田が開けず、米がほとんど取れない。そのため餅を作ることができなかった。
平家の人が、人の頭に立ち大将になれるように願い「八つ頭」を材料に使い、豆腐で平氏と源氏の刀が打ち違えているように盛り付けた雑煮が、うちちがえ雑煮といわれる。
都築さんは子どもの頃、三が日には親戚宅で、雑煮、餅、本膳が振る舞われ、ずっと食べていたという。「子どもには量が多くて雑煮が嫌で仕方なかった。ぜいたくな話だ」と振り返る。
中学生の時に他の地域では雑煮に餅を入れることを知り、餅入り雑煮を初めて食べたのは、勤め先の兵庫県だった。「おいしくて、いくらでも食べられると思った」と笑う。
今ではうちちがえ雑煮を食べる人は、ほとんどいないという。都築さんは「平家伝説と合わせ、食文化を若い人につないでいきたい」と力を込める。
うちちがえ雑煮
■材料(3人分)
水900ミリリットル、いりこ20グラム、A(みそ40グラム、しょうゆ60ミリリットル)ジャガイモ小3個、岩豆腐250グラム、「八つ頭」中4個
■作り方
①「八つ頭」は皮をむき半分に切る。ジャガイモはゆでて皮をむく。岩豆腐は短冊切りで6等分する。
②鍋に水といりこを入れ火にかける。煮出してだしを取る。
③いりこを取り出し、Aを加え、具材にかける分のだしを取り分けておく。
④具材を全て入れ、弱火で15~20分煮込む。
⑤わんに具を入れ、岩豆腐を十字に重ね、取り出しておいただしを掛ける。
《地域色豊かな逸品も》
■和歌山県田辺市
和歌山県田辺市大塔地区では、サトイモ(親芋)の皮をむかず2日間煮込んだ正月料理「ぼうり」がある。大塔村商工会によると、鎌倉時代末期、後醍醐天皇の皇子・大塔宮護良(もりなが)親王が敵から逃れ同地区を通った際、所望した餅を農家が与えなかった。後に非礼を悔い、約600年間正月に餅を食べなかったという。
■沖縄県
沖縄県では正月に雑煮を食べる文化がない。祝いの席で食べられている郷土料理「いなむどぅち」がある。皮付きの豚バラ肉、シイタケ、こんにゃく、厚揚げ、沖縄で食べられる魚のすり身にたっぷりと卵を入れた「カステラかまぼこ」などの具材を短冊切りにした汁物だ。
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