そのタコを使った明石焼き、地元では卵焼きと言うんですけど、それが子どもの頃の一番思い出のある食べ物になります。
自分が育った場所に、この場所ならではの食べ物があって良かったなと思うんですよ。今でも子どもの頃に食べたお店が残っていて、大人になって帰省した時も、それをまた食べられる。おかげで「帰ってきた感」があるんですよね。

明石焼きは、大阪などのたこ焼きと違ってだしで食べます。味を変えてソースで食べることもありますけど、基本はだしです。普通のたこ焼きよりも使う卵の量が多いので、ふわふわと柔らかいですね。
地域に密着している食べ物です。小学校の時の秋祭りで、太鼓をたたいたりしたんです。祭りに向けて夜に練習をして、それが終わると地域の青年団の人たちが僕たちを明石焼きの店に連れていってくれました。中学や高校時代は、学校帰りに食べたり……。ですからふるさとの味というと、やっぱり明石焼き。
東京で強く思い出に残っている食べ物もあります。大学受験で初めて東京に行った時に、新宿のタカシマヤタイムズスクエアにある洋食屋「つばめグリル」で食べたハンバーグにびっくりしました。

まず街の大きさと人の多さに圧倒されるじゃないですか。「うわ! 新宿や」みたいな。それで「つばめグリル」でハンバーグを頼んだら、アルミホイルに包まれて鉄板の上に載って出てきたんです。その横にホクホクのジャガイモが丸々1個置いてあって。「明石にはこんな食べ物なかったな」と、衝撃を受けました。明石でもハンバーグはあるけど、アルミホイルに包んだり、丸々のジャガイモと一緒に出す店はなかったと思います。ジャガイモの薄皮をペーッとめくってバターを付けて食べたら、これもうまくて。強烈なカルチャーショックを受けた記憶がありますね。あの時の衝撃は、何十年たっても鮮明に覚えています。東京という街のでかさと、こんな店があるんやというすごさを。
思い出の食べ物といったら、この二つですね。まだ両方ともお店が残っているのもありがたいことです。

それにしてもすごいと思うのは、国土の狭い日本に、いろんな食べ物があるということ。新幹線で大阪から名古屋に行くと、全然食べ物が違ったりするじゃないですか。手羽先とかみそ煮込みうどんとか。いえ、それ以前に新幹線で1駅の京都にも、大阪にはない食べ物がたくさんあります。おふを使った料理とか八ツ橋とか。こんなこと、他の国でもあるんでしょうか。

気象予報士の観点からすると、日本はすごく気候が豊かなんです。そのため食べ物が多種多様なのではないかな、と。トンネル一つくぐっただけで、気候が変わり食べ物が変わる。暖流の流れる地域と寒流の流れる地域で、魚の種類が全然違う。日本は多様な気候のおかげで、各地で異なる野菜や魚を食べることができます。
でも今、その気候が急激に変わりつつあります。気候の変化に応じて、育てる作物を変えたらいいと言う人もいるようですけど、そんな簡単なものではないですよね。農家の皆さんは、気候変動の適応策をものすごくされているんだと思います。その大変さを、僕たちは知る必要があると思います。同時に、その場所でしか食べられない食べ物を大切に残したいと感じます。未来の人たちにもこの場所でこの食べ物を食べてほしい。さまざまな地方に行くとそういう思いを強く持ちます。
(聞き手・菊地武顕)