市街地の東方、集落に続く海沿いの車道は崖崩れの土砂で埋まっていた。急斜面に張り付く足場の悪い未舗装の山道を歩いて10分、地区住民が身を寄せる鵠巣小学校があった。
同小の各教室には住民10~30人が寝泊まりしている。ほとんどが高齢者で足腰が弱っており、山道を10分歩くのも「危険」なのだ。
この日、陸上自衛隊員20人が灯油を入れたポリタンクを抱え、徒歩で運んできた。責任者の田中八万人曹長は「今日のうちに何往復できるか」と汗を拭った。県内の孤立集落は4市町に24地区もあるため、同じ地区に毎日は運べない。1回で可能な限り多くの物資を運んでいるという。
輪島市がある奥能登は停電と断水も続いている。地区の避難住民は酷寒の夜を石油ストーブでしのぐ。飲用水は自衛隊が定期的に、トイレ用水は若い住民が農業用水をくみ上げ、運んでいる。
米は地区の農家が持ち寄ったが、ストックは「あと3日」しかない。せき込む高齢者が増えており、風邪薬も足りない。市職員として避難所を運営する米農家の村田直之さん(57)は「一番怖いのは感染症。患者が続出すれば、どうやって病院に運べばいいのか」と焦りを隠さなかった。
持病を抱える住民もいる。糖尿病と前立腺疾患がある米農家の大森勇造さん(73)は「体調が悪化したら」と声を震わせ、「いつまでこの恐怖が続くのか」と言った。