
坂本哲志 農相
機運高め地域に拡大

通常国会で改正された食料・農業・農村基本法では、見直しの柱の一つとして、環境と調和の取れた食料システムの確立が位置付けられた。進めていくには、生産者から消費者まで関係者全員の機運を醸成し、相互の理解と協働で一丸となって取り組んでいくことが必要だ。みどりGXラボは、関係者の連携を促し、課題解決の手法を探る絶好の機会。持続可能な食と農の取り組みを地域や次世代に広げる息の長い取り組みになってほしい。
枝元真徹 代表
多様な主体が知恵出し合う

農林水産業は気候変動の影響を真っ先に受け、持続性に大きなリスクを抱える。生産力の向上と持続性の両立を実現するため、農水事務次官として「みどりの食料システム戦略」を策定したが、産地の努力だけでは実現できない。さまざまな主体が知恵を出し合い、課題解決を試みる場が必要だ。ラボは、そのためのプラットフォーム。環境と農業経営、地域社会を持続可能とし、豊かな食と農を未来に引き継ぐため、力を合わせていきたい。
俳優・永島敏行さん
消費者の意識で農業は変わる

30年ほど前から農業を始めた。妻がある日、スーパーで10円で売られているハクサイを見て、「誰が食べていけるの」と怒って帰ってきた。農業を体験していなかったら、喜んでいたと思う。第1次産業は当事者だけでは変わらず、消費者がどう思うかで変わる。そんな体験ができる場を、みどりGXラボと連携してつくっていきたい。
横山紳・農水事務次官
環境配慮を可視化、消費者に選択促す

技術の進歩を活用し、安定的な農業生産と持続性の確立を両立させていくのがみどりの食料システム戦略の目標だ。高水準だが、それだけ地球環境の問題は深刻。みどりの食料システム法を作り、新たな補助事業も設けて、環境負荷を低減した生産活動や技術開発を後押ししてきた。
ただ、それだけでは持続可能といえない。みどり戦略は、生産から加工、流通、消費までの一連の食料システムの中で環境負荷を低減する取り組み。作った農産物が、それに応じた価格で販売でき、その収益で農家が継続的に生産できるようにする必要がある。
その意味で、一番大事なのは消費者がどう受け止めるか。環境に配慮した農産物を買いたいが、どれがそうか分からないから買わない人が多いという調査結果がある。農水省は「見える化」のため、23品目を対象に、温室効果ガスの削減や生物多様性の保全に対して星を付ける「みえるらべる」を始めた。
若い世代は環境に敏感。有機農業の拡大には、学校給食での活用が大事だ。高校生や大学生がみどり戦略に取り組む「学生チャレンジ」も行っている。
改正食料・農業・農村基本法にも、「環境と調和の取れた食料システムの確立」が理念として書き込まれた。農水省としても、この方向はぶれることなく推し進めていきたい。(7月5日付で農水省顧問に)
JAふくしま未来・西幸夫常務
みどり戦略専任職員配置、土壌分析で肥料低減

JAの地域農業振興計画にみどりの食料システム戦略を位置付け、2023年3月に専任職員3人を配置した。異常気象や肥料・飼料の高騰の中、持続可能な農業の実現を目指して取り組んでいる。
その一つが、25年2月稼働予定の土壌分析センターの設置だ。最近の土壌は過剰施肥の傾向があり、適正施肥で(化学肥料を削減して)生産コストも下げていく必要がある。3~10日で分析でき、適正な施肥設計をし、営農センターを通じて農家の指導に役立てる。
管内の資源の循環活用も進めている。鶏ふんを3割ほど入れた肥料は、生産コストも3割削減して供給できる。汚泥を利用した肥料の実証もしている。
生産組織や地域の理解を得るためのフォーラムも開き、JAの公式ユーチューブ「みらいろチャンネル」では毎月、みどり戦略に取り組む生産者を組合長が訪問し、紹介した。24年度には、管内全12市町村と、持続可能な農業の実現に向けた連携協定を締結する。
価格形成、消費者の理解が鍵

JAふくしま未来の西幸夫常務は、みどりの食料システム戦略など環境負荷低減にJAが取り組む必要性を強調しつつ、「農家所得にどうつながるかは不透明」と指摘。環境への配慮が適切に反映される農産物の価格形成の在り方を求めた。「産地はみどり戦略が良いことだと分かっているが、どんな取り組みが成果につながるか、情報が不足している」と述べ、みどりGXラボによる発信にも期待を寄せた。
農水省の横山紳事務次官(当時)は、生産者の「経済的な面での持続可能性」も重視し、2027年度導入を目標に検討中の新たな直接支払いの仕組みの活用で、環境負荷低減の取り組みを促したい考えを示した。一方、全て予算措置で支えるのは難しいとして「消費者が理解し、選択する好循環を実現しなければならない」と提起した。
東京農業大学の入江満美准教授(みどりGXラボ運営委員)は、肥料・飼料が高騰する中、地域資源の循環で環境負荷もコストも抑えられると説明した。新規就農する学生は環境に配慮した農業を選ぶ傾向にあるとして、農水省の「みえるらべる」などで選びやすくし、消費者が買い支える重要性も指摘した。
消費者への発信について、俳優の永島敏行さんは「SNS(交流サイト)で流せば簡単だが、担保された情報が大事」と強調。「消費者の生の声が生産者に伝わっていない」とも述べ、顔を合わせて信頼関係を築く必要性についても語った。
みどりGXラボは毎月、オンラインセミナーを開き、有識者の講演や現場の実践事例から課題解決策を探る。8月7日には「脱炭素~J-クレジット制度の今~」をテーマに開催。同制度を活用し、水稲の中干し延長で温室効果ガス削減に取り組む宮城県のJA新みやぎが事例報告する。
年2回開く会員交流会は、仲間づくりや連携のきっかけにしてもらう。課題解決に役立つ技術やサービスなどを持つ企業とのマッチングも行う。
活動は日本農業新聞や、LINEで届くデジタルメディア「みどりGX新聞」などで発信する。入会は右記QRコードから。

個人・法人を問わず、誰でも入会できる。農家やJA、自治体、研究・教育機関、消費者などの会費は無料。入会はQRコードの公式サイトから申し込む。

農家、JAなど 計153の個人・団体
うちJAグループ=JAたじま、JAきたそらち、ホクレン、JA熊本経済連、JA兵庫中央会、JAいちかわ、JA全農おかやま、JAいすみ、JAはだの、JAぎふ、JAつくば市、JA水戸、JA福島中央会、JA福井県中央会、JA常陸、JA宮城中央会、JAひがしかわ、JA京都やましろ、JAふくしま未来、JAグリーン近江、JA茨城県中央会、JA滋賀中央会、JA新みやぎ、JA石川県中央会、JA秋田しんせい、JAにじ
<グリーン会員>
自治体、研究・教育機関、消費者など 計162の個人・団体
<パートナー会員>
計9団体
JA全中、JA全農、農林中央金庫、JA共済連、フェイガー、ボストンコンサルティンググループ、日本製紙、クオンクロップ、トヨタ自動車
<賛助会員>
計10団体
東京農業大学、イーサポートリンク、グリーンフィールドプロジェクト、西村あさひ法律事務所・外国法共同事業、一般社団法人the Organic、タキイ種苗、アグリビジネス投資育成、やまびこ、ZEROCO、全新企画社
※申込順、会員名称を掲載可とした団体のみ(入会予定を含む)