二番穂は稲刈り後の株から再生して出てくる。刈り取らず翌年までそのままにすることも少なくない。出穂直後のもみを吸う同害虫にとって、格好の餌だ。記者はまず現場の状況を確認するため、情報を提供してくれた男性の下に向かった。
記者が現場に訪れた10月下旬、案内してもらった田は、草丈40センチほどの青い稲が揺れていた。収穫が終わったのは9月。無数の株から二番穂が出ており、もみを一粒割ると、同害虫が吸汁しやすいミルク状の液体が出てくる。
田に足を踏み入れると、わずか3歩目で同害虫を発見。近づくと素早い動きで株元に隠れた。10メートル歩いただけで7匹見つけた。
男性によると、今年産は同害虫が多発し、5回にわたって防除したという。「なんとか米を守り抜き、稲刈りを終えてホッとしたのも束の間。まさか二番穂も狙われるとは思わなかった。勘弁してほしい」とつぶやく。
男性は毎年、隣接県の畜産農家に稲わらを販売している。畜産農家が受け取りに訪れるのは年明け以降。稲わらの保管場所がないため、田に置いておくことになり、二番穂を含めて耕うんできるのは例年2月頃だ。
今年は二番穂に同害虫が発生したため、稲わらの販売を取りやめ、年内には耕うんするという。
群馬県は「二番穂での発生は複数件確認している」(農業技術センター)と説明。来週にも、現場に注意を呼びかける方針だ。
記者は群馬県以外の状況も取材。埼玉県屈指の米どころ、加須市でも確認されていることが分かった。県の出先機関の加須農林振興センターの担当者は「近年、イネカメムシ自体は管内で発生しているが、二番穂で確認したのは今年が初めて」と話す。
同センターは注意喚起のちらしを作り、市やJAなどに配布。同害虫が、越冬のための養分を蓄えることができないよう「収穫後、なるべく早く耕うんし、刈り株を埋没させて」と呼びかける。
二番穂に同害虫が発生すると、どんな影響が出るか。農研機構・病害虫防除支援技術グループに見解を求めると、担当者は「越冬する個体が増える可能性がある」と説明した。
稲刈り後、同害虫の幼虫は餌不足で死ぬことが多い。ただ、二番穂から栄養を得てしまうと「成虫に育ち、冬を越せる個体が増える可能性がある」(同担当者)という。
越冬数を増やさない対策として担当者は二番穂の早期刈り取りが有効だとし、すみかになる株自体をすき込むことも勧める。
二番穂は暖かい気候が続くと出やすくなるという。気象庁は、11月の気温は全国的に高めで推移すると予測。「平年は二番穂が出ない地域でも、高温が続くと出る場合がある」(同)として警戒を促す。
(高内杏奈)
[ことば]イネカメムシ 1970年代後半以降、ほとんど確認されていなかったが、2020年ごろから発生と被害が見られるようになった。成虫は茶褐色で体長1センチ程度の大型の斑点米カメムシ類。成虫で越冬する。