根強い役割意識 変革生むのは対話
重視しているのは部会員とのコミュニケーション。会合はもちろん、LINEも利用して、産地を盛り上げるためにどうすれば良いか意見を募り、みんなで実践しています。
橋場さん 私は4位の「家事、子育てと両立ができない」に共感します。結婚後、「家事・育児は女性の仕事」という考え方に直面し、「義務教育で受けてきた男女平等の考えは何だったの?」と思ったこともありました。
夫と何度もぶつかりましたが、徹底的に話し合うことで、環境は前進したと思います。お互いの得意分野を知り、それをどう経営に生かすか考え、家庭と仕事の役割分担を決めました。今では夫も家事・育児に関わっています。
小川さん 男性だけの会合の場で情報が共有されたり、女性が家庭に縛られたりと、昔ながらの男女の役割分担意識は、いまだに残っています。
性別による役割分担の意識がなくならないのは、性別を超えて力を合わせないと、地域もJAもこれから持続できないという危機感が足りないから。そういう状況は、まだ多くの場で残っていると思われます。
意見募りすぐ反映 より働きやすく
当JAの女性活躍推進プロジェクトは、性別問わず職場環境を良くするための意見を募り、反映しています。大事にしているのは「とりあえず、やってみなはれ」という精神。ぐずぐずしていると時機を逸してしまいます。
橋場さん これまでどのような取り組みをしてきたのですか。
大林さん 例えば育児時短勤務の期間を3年延長しました。4月からは有給休暇を時間単位で取得できるようにします。職員からの提案は、お金をかけずにできることも多くあります。
JA役員に立候補したいのに「家庭の理解を得られない」という女性の声を聞き、夫を説得しに行ったことも複数回あります。組織のトップが行動しなくては変わらないと思っています。
福田さん 女性活躍推進プロジェクトのメンバーは、みんな現場で働く職員。月に一回ミーティングを開き、「どういう職場が働きやすいか」を検討しています。
育児短時間勤務は子どもの対象年齢を(小学校就学前から)小学3年生終了まで引き上げ、みんながくつろげるコミュニティースペースも設置されました。今後は、オフィスカジュアルも検討しています。
スピード感を持って実行するというのが、当JAの特徴だと思います。「この前、話に出ていたな」と思ったら、もう実現しているという感覚です。
大事にしたい視点「次の世代のために」
女性が前に出られるようにするのが目的ではなく、子どもたちや若者といった次世代のために、何をすべきかという視点を大事にしてほしいです。
小川さん 女性の働きやすさは、若い人が活躍しやすくなることにもつながります。あるJAで、女性理事のために資料を分かりやすく作り直したところ、若手の理事も理解できるようになったという事例もあります。
女性農業者がもっと活躍するには、女性同士のネットワークも大きな力になります。世間が変わるのを待っていても、時間がかかることもあります。ぜひ女性側から積極的に働きかけたり、仲間を作ったりして頑張る姿を発信してほしいです。
矢野さん 「知識がない」「よく分からない」という理由で、外に出るのを避ける女性がいます。でも、それって、もったいないと思うんです。
私は、部会長になるまでは自分のブドウの販売のことしか考えていませんでした。部会長になったことで、産地の将来について考えるようになりました。
部会を通じて経験豊富な先輩農家の方々との関わりも増えて、見識が広がりました。この楽しみを、もっと多くの女性に知ってほしいですね。
(進行・高内杏奈、撮影・鴻田寛之)
はしば・さゆり
1985年生まれ。新潟県長岡市で、夫と共に水稲30ヘクタールなどを生産する。同県中越地域女性農家コミュニティー「nowa」の設立にも携わる。3児の母。
やの・えいこ
1966年生まれ。「藤稔」など60アールを栽培するブドウ農家。部会長を務めるJA兵庫みらい加西市ぶどう部会には約120人が所属する。2019年から現職。
おおばやし・しげまつ
1953年生まれ。滋賀県JAグリーン近江の組合長。2022年から現職。JAとして管理職などの女性登用の目標数値「黄金の3割」を掲げる。
ふくだ・まゆみ
1977年生まれ。滋賀県JAグリーン近江の総務課長を務める。入組後、窓口、渉外担当や支店長などを経て、2020年から現職。2児の母。
おがわ・りえ
1966年生まれ。日本協同組合連携機構(JCA)基礎研究部長。農村女性が地域で活躍するための課題と成果を研究している。2024年から現職。
<取材後記>

そんな声を取り上げた座談会では「女性の声を取り入れるのは男性や次世代のためにもなる。ちょっとだけ、視点を変えてほしい」という意見が出た。
誰もが表立って差別と闘う“強い女性”である必要はない。だが、意思決定の過程に女性が参加する、できるような環境にするのが今を生きる私たちの責任ではないか。性別によって役割が決まる、そんな場所で「農業をしたい」とは思ってもらえないからだ。
今回の一連の取材で、女性の声を取り入れて変革を起こした農業経営やJAの姿を目の当たりにした。女性を取り巻く環境が良くなる可能性は間違いなくある。私自身、絶望に寄り添うだけでなく、希望を持って農村の変わる姿を取材し続けたい。
(高内杏奈)
ぶどう部会長・矢野さん
阪神・淡路大震災を機に神戸市から加西市に移住。農家に転身し同部会にも所属した。ブドウ栽培を続ける中、部会の役員選出の場で矢野さんを推す声があり「ありがたく受けた」。
「女性だから壁を感じたことはない」と矢野さん。離農者の園地活用に向けてJAや部会、自治体が連携し、園地情報を集約する取り組みでも「みんなで産地を維持しよう」と協力を呼びかける。部会の面積は就任以降、30ヘクタールを維持する。


滋賀・JAグリーン近江
これまでに育児時短勤務の期間延長や、部署を超えて交流できるようフリースペースの設置を同プロジェクトが提言し、実現につなげた。
「黄金の3割」と銘打ち、JAの女性登用の目標数値も掲げている。管理職とJA役員、総代、組合員などの女性比率をそれぞれ30%に増やす方針だ。

