米国トランプ政権の追加関税を巡る交渉が始まった。トランプ氏の悲願は「貿易赤字の解消」。全世界に一律10%の関税を追加し、国・地域ごとに上乗せする相互関税も、各国に対する貿易赤字額を踏まえて設定されている。確かに日本の対米貿易は約9兆円の黒字だが、農林水産物・食品では約2兆円の赤字。米側は日本の米など農産品の市場開放や検疫緩和に関心を示すが、赤字の解消には効果が薄く、日本が農業分野で譲歩する余地はない。
米政権は、自動車、鉄鋼・アルミに25%の関税を追加した。「相互関税」は各国との貿易赤字額を輸入額で割って算出しており、日本には24%を課す。7月上旬までは一律10%を維持する。
トランプ氏は1次政権の頃から、自動車・同部品を中心にした対日貿易赤字を問題視し、解消を最優先課題にしている。
一方、農産品は真逆の構図だ。2024年の日米間の農林水産物輸出額は、日本2429億円、米国2兆2306億円。日本にとって米国は最大の輸出・輸入相手国だが、両国の輸出額には9倍も差がある。

日本の対米輸出は、品目別で日本酒などアルコール飲料が265億円で1位。4位は緑茶(161億円)、6位は牛肉(135億円)だった。14位の米(25億円)も近年伸ばしている。いずれも世界全体への輸出額の2割以上を占めた。
米国の対日輸出は、トウモロコシ(4593億円)、大豆(1876億円)、牛肉(1802億円)の順に多い。米は511億円で9位。日本はトウモロコシなど多数の品目で輸出先国トップ5だ。
トランプ氏は第1次政権時、日米貿易交渉で日本車への追加関税をちらつかせ、米国産の牛や豚などへの関税を環太平洋連携協定(TPP)水準をのませた。中国との貿易摩擦で余ったトウモロコシを引き受けるよう当時の安倍晋三首相に約束させたこともあった。
米国は今回の交渉で、ジャガイモ(対日輸出額43・5億円)の検疫緩和を要求したり、日本が米にかける関税が「700%」と主張して米市場開放に関心を示したりしている。

ただ、米国から日本への米の輸出額は全輸出品のうち1%未満。24年は日本に約35万トン輸出した。仮に米国が生産する全ての米(年間500万~700万トン程度)を日本へ輸出しても輸出額は単純計算で1兆円前後にしかならず、米国は米輸出拡大だけで9兆円の赤字額を解消できない。
<取材後記>
今回の検証で、日米交渉で仮に日本が農業分野で市場開放しても、トランプ大統領が最優先課題とする貿易赤字解消への効果が薄いことが明確になった。一方で強みのある農産物は何か、輸入に依存する品目が何か、はっきりした。生産力が弱まる品目が増えれば、相手に付け入る隙を与え、一層の輸入を迫られるリスクが高まる。国内の生産基盤強化の重要性を再認識している。
(岡信吾、佐野太一)
