古典落語は江戸時代を舞台にするものが多いので、肉はほぼ出てこない。が、ないというわけではない。寒い時期にうってつけの、肉が出てくる演目がある。「二番煎じ」だ。
冬の最中、火の用心の見回りをする商家の旦那衆が、役目をさぼって番屋で猪鍋を囲み、酒を飲み交わす。それをとがめに役人が来てしまい……という筋の噺(はなし)だ。
この噺、上手い演者がやると、鍋をつつく描写がたまらなく美味い。やけどしそうな熱さの猪肉を口に入れる、思わず吹き出しそうになりつつも唾とともにかみ締め、胃のふへ落とし込む。そこに熱かんを流し込む。冬の時期に聴くと、自分の体もポカポカする気がするから不思議だ。特に秀逸なのが、肉の旨みを吸ったネギを食べる場面。トロトロに煮えたネギを前歯でかむと、熱い汁が喉にピュ!と吹き出す。あちい!と叫びつつもなんともうまそうだ。
うまそうに食べる演者を見ると、自然と自分も食べたくなる。自分は子供のころネギが苦手だったが、親の持ってたテープでこの「二番煎じ」を聴いた後、なぜかネギが食べられるようになった。思うに、子供に苦手なものを食べさせる時は「体にいいから食べなさい!」ではなく、目の前で親がさもおいしそうに食べるほうが有効なのかもしれない。

総合養成科第49期卒業
(有)岸商店=精肉店・東京都品川区
店長・五十嵐達雄)