料理に関する定説には、科学的な根拠があるのか？と感じるものがいくつかある。そのうちの一つが「焼き目を付けると肉汁の流出が防げる」というもの。最近は低温調理が家庭でできるようになったので、ローストビーフも低温調理を活用するレシピが増えている。だが、焼き目を付けるタイミングが低温調理の前か後かはレシピによってまちまち。どっちがいいか実験している人も多いが、いろいろ見てもジューシーさにそこまで差が出ているか分からない。焼き目が膜を作るなら、水分の流出量（ジューシーさ）に明確な差が出ておかしくないのだが。

　そもそも焼き目程度で水分子の流出を防ぐような膜ができるのだろうか。医療では血管を焼いて出血を止める「焼灼術」という技術があるが、そのイメージが料理法に伝播（でんぱ）してるのかもしれない。どこか公的な機関が実験してくれるとはっきりするのだが、焼き目の香ばしさが食欲をそそるのは紛れもない事実。なので今日も店売りのハンバーグに焼き目をつけてから仕上げている。

　実際に事実ではないと確認できたのが「すき焼きで、しらたきのそばに肉を置くと硬くなる」というもの。これは日本こんにゃく協会がしらたきの汚名を晴らすべく実際に実験をし、しらたきの有無は肉の硬さに影響しないことを確認している。しらたきに含まれるカルシウムが肉を硬くすると言われていたのだが、そもそもカルシウムの含有量は焼き豆腐の方が多いのだとか。しらたき無罪！

（公益社団法人全国食肉学校
総合養成科第49期卒業
（有）岸商店＝精肉店・東京都品川区
店長・五十嵐達雄）