昔は多くの肉屋がラードを自作していたそうだが、今では少数派に。そもそも作るのが面倒だ。豚脂を粗挽きしてじっくり加熱し、脂カスを網でこせば出来上がりなのだが…とにかく熱い&暑い。時間もかかるし匂いもすごい。なので定休日にやるしかない。この作業で貴重な日曜の午前がつぶれてしまう…。出来上がったラードも、手作りだと意外と傷みやすい。夏季に常温保存していると、酸化して使えなくなることも。そんな扱いづらいラードをなぜわざわざ作るのか。無論「うまい」からだ。
自家製ラードの特徴は、その香りにある。適度に混ざった肉片が焦げることで、独特の香ばしさが生まれるのだ。粗挽きの生パン粉であえて厚めの衣を作り、180度超の高温で濃い目の小麦色に揚げる。カリッとした食感と香ばしい香り、そしてラードの濃厚なコク。これがコロッケやメンチを一段上の味にしてくれる。
このラードの味をシンプルに堪能できる当店の総菜が「玉ねぎフライ」だ。玉ねぎの輪切りにパン粉を付けて揚げただけという、単純極まりない一品。だがじっくり揚げて甘味の出た玉ねぎにラードの風味が重なり、これに中濃ソースをかけてかぶりつくとなんともうまい。1枚80円で楽しめる、街の肉屋のB級グルメである。

公益社団法人全国食肉学校総合養成科第49期卒業
(有)岸商店(精肉店・東京都品川区)店長
五十嵐達雄