[論説]企業の「農で副業」実証 農家らの不安解消が鍵
実証実験は、JA長野県農業労働力支援センターと、山形県農業労働力確保対策実施協議会が農水省の支援事業を活用して行う。長野県ではJR東日本、KDDI、中部電力が参加を表明した。山形県はJR東日本がNTT東日本、東北電力と進める。同センターによると、企業の社員がアプリを活用し、副業やボランティアで農作業をする実証実験は全国で初めてという。
これまでのマッチングとの違いは、法人向け機能をアプリに設けたことだ。社員個々の登録や農作業従事の状況を企業側が把握し、労務管理ができる。JR東日本は社員が働きやすい環境づくりへ、法人向け機能のニーズ調査や改良にも携わる。
アプリ「デイワーク」の導入は全国に広がり、38道府県のJAや自治体が活用する。果樹地帯を中心に活用が進む長野県は14JA中12JAが導入している。
運用が増える一方で、課題も見えてきた。長野県では2022年に173農家が利用し、約1500人が働いた。前年比2・4倍となる9191件でマッチングしたが、求人数に対して2379人が不足した。一番の課題は受け入れ農家、働き手の双方に「不安」があること。この不安を解消することが、利用拡大の鍵といえる。
アプリ利用者へのアンケートによると、働き手を受け入れる農家側は「どんな人が来るのか分からない」「作業者への説明が難しい」という不安が多かった。
長野県での実証は、主にJAながの管内で6~12月に行い、作業内容はブドウの摘粒やリンゴの摘果、収穫など。「作業者への説明」の不安解消へ、動画の活用や研修会開催で対応する。同時に「どんな作業をするか心配」「自分にできるのか」といった働く側の不安解消も目指す。
今回、企業が実証に参画するのは「生産現場で働いたことが、新幹線での農産物輸送などの業務に生きる」(JR東日本)という考え方が背景にある。社員が各地で地域サポーターを結成し、農業関連事業にも取り組むKDDIは「実証への参加は日頃の活動の延長線上にある」とみる。
単なる「働き手」という捉え方でなく農家とJA、企業、社員それぞれに価値を見いだせる関係づくりが大切だ。それが農畜産物を作り、買い支える関係性に発展する。