[論説]明治用水事故から2年 広範な連携で点検急げ
明治用水頭首工の事故は、農業用だけでなく工業用の水供給も停止し、幅広い地域産業に影響が及んだ。近年は豪雨に備えた流域治水のインフラとしても注目されており、農業水利施設の役割は重要性を増している。
頭首工の復旧工事は25年度中に終了する見込みだが、各地では施設の老朽化が進んでいる。農水省によると、受益面積100ヘクタール以上の基幹的農業水利施設2万3539カ所のうち、標準耐用年数を超過した施設は1万2413カ所と約半分を占める(2022年3月現在)。今後10年で超過する施設を加えると、7割に相当する1万6248カ所に達する。
老朽化に伴い、事故が起こるリスクは高まる。1993~2021年に発生した農業水利施設の突発事故は全国で2万736件。元日の能登半島地震でも、防災用ため池や農業用ダムなど農業水利施設の損壊が相次いだ。
災害のたびに基盤はもろくなる。「いつ起きてもおかしくない」(気象庁)といわれる南海トラフ地震の被害想定範囲内には、頭首工など農業水利施設の33%、水路網の28%が含まれている。地震などの災害に備えた施設の補強や点検は待ったなしだ。
事故や災害時を想定した「事業継続計画(BCP)」の策定も重要だ。漏水事故を受けて東海農政局は、復旧工事中に災害などで取水ができない状況に陥った場合を想定し、BCPを策定した。
通常、保守・整備は地元の農家が費用の一部を負担するケースがほとんどだ。しかし、近年の資材高騰や高齢化に伴う農家の減少などで、1人当たりの負担が重くなっている面もある。
東京大学大学院の乃田啓吾准教授は「農業水利施設の利用が多様化する中で、農家やJA、土地改良区などの農業関係者以外に、自治体の防災担当者や工業用水関係者、地域住民も含めた広範な関係者が参画する必要がある」と指摘する。農業関係者以外でも、水の恵みを受け取る人は多い。今後は、幅広い関係者と連携し、保守や整備にかかる労力など負担のあり方を検討してはどうか。
多面的機能支払交付金の活用で、水路の清掃など農家以外の地域住民が協力し施設の長寿命化を目指すものも一例だ。施設の保持は流域全体で考える必要がある。