[論説]上向かぬ食料自給率 国産転換の機運高めよ
22年度の国民1人1日当たりの供給熱量は2259キロカロリー、うち国産供給熱量は850キロカロリーだった。前年度に豊作だった小麦の10アール当たり収量が平年並みとなり、漁獲量も減った一方、原料の多くを輸入に頼る油脂類の消費が減り、自給率は横ばいとなった。ただ、小数点以下まで含めると37・64%と前年度より0・37ポイント下がっており、20年度(37%)の最低水準並みで、強い危機感を持たねばならない。
生産額ベースも前年度比5ポイント減となり、過去最大の下げ幅となった。22年度の食料輸入額は7兆9407億円で、ウクライナ危機、円安を背景に穀物相場や輸入食料の価格が上昇し、輸入量は同じでも前年度より1兆円も高くなった。半面、国内生産額は10兆2728億円と同2400億円高にとどまり、資材の上昇分を農畜産物の価格に転嫁できず、結果として自給率を押し下げた。
政府は30年度に食料自給率をカロリーベースで45%、生産額ベースで75%に高める目標を掲げるが、大きな開きがある。この差を縮めるためには、肥料や飼料などを含めて国産への転換が鍵となる。
加えて、平時から国民の熱量を賄うための指標となる「食料自給力」も過去最低となった。米・小麦を中心とした作付けの場合、供給熱量は1人1日当たり1720キロカロリーと前年度比26キロカロリー減少した。芋類を中心とした場合は2368キロカロリーで同53キロカロリーの減となった。人口減に伴う農地と労働力不足が鮮明となり、国民の命を支える生産基盤の維持・拡大は待ったなしだ。
野村哲郎農相は、8日の会見で自給率のてこ入れに向け「海外依存度の高い小麦、大豆、飼料作物などの生産拡大を今後、着実に進めていきたい」と表明した。並行して不測時における食料安保の検討会を立ち上げ、流通制限や増産指示など、政策的に可能な対応の協議に入った。法整備も視野に入れ、気候変動や紛争など食料の安定供給を脅かす有事に対し、政府全体で意思決定できる体制を整えるとしている。
ひとたび有事が起これば国際秩序は乱れ、食料危機に直結することは、ウクライナ情勢で立証済みだ。今こそ輸入依存から脱却し、「食の主権」を取り戻す時だ。不測の事態でも国民に食料を安定供給するには、この国の農業が盤石でなければならない。