[論説]相次ぐ熊の人身被害 地域が結束し対策徹底
熊から農家の命と農作物を守るため、農水省は9月上旬、各農政局や北海道庁に対して現場への注意喚起を促した。同省は具体的な対策として、①収穫残さの適切な処理②里山との緩衝地帯での刈り払い③作業中はラジオなどをかけて人の存在を知らせる──ことなどを挙げた。
周囲に人が集まる施設が少ない農地や畜舎、牧場は熊にとって近寄りやすい環境が整う。特に農作物や家畜が襲われるケースは多く、北海道東部の酪農地帯で、乳牛を襲い続けてきたヒグマ「OSO(オソ)18」もその一例だ。
ただ、各種対策を個人で実践しても、地域に無防備な場所があれば、そこから熊が侵入する。それは獣害全般に言える課題でもある。農家や住民同士で共に声をかけ合い、地域ぐるみで対策を実践、継続することが人と熊を含めた野生動物のすみ分けを促し、人や農作物、家畜の被害防止に結び付く。協力し、今秋を乗り切りたい。
熊に遭遇すれば命に関わる重傷を負う可能性は高い。特に今年は最大限の警戒が必要だ。環境省によると4~7月の熊の人身被害は54件と、記録が残る2007年以降最多となっている。ヒグマが生息する北海道では1人が命を落とした。ツキノワグマが生息する本州以南でも、人身被害が相次いでいる。
4~7月の熊の出没件数は7967件。人身事故がここ10年で最多となった20年度の出没件数(4~7月)は7945件で、今年とほぼ同水準となる。20年度は最終的に、北海道から山口まで23道府県と広範囲で被害が発生した。これから冬眠を控えた熊の餌探しが活発になるだけに、被害が一層、増える恐れがある。警戒が必要だ。
熊による人身被害や出没が増えている要因の一つに「新世代熊」の存在がある。野生熊の生態に詳しい福島大学の望月翔太准教授は、「耕作放棄地など人の手が入らない場所が増え、熊の行動範囲が広がっている」と分析。その上で「人里に近い場所で生まれた熊」を新世代熊と位置付け、警鐘を鳴らす。新世代熊は増えており、生まれた時から車の音や人の話し声に慣れており、人里に下りてきやすいと指摘する。
熊対策は中山間地域に限らず、市街地を含め広範囲で求められている。地域一体で対策を徹底してほしい。