[論説]2023年度天皇杯 経営、地域のお手本に
天皇杯は、過去1年間に行われた農林水産関係の表彰や共進会、品評会といった行事の「農林水産大臣賞」受賞者から選ばれる農業分野で国内最高の栄誉だ。今回は456点の中から選ばれた。
品目や地域で抱える課題解決に向け、個人・団体の多様な取り組みが表彰された。農産・蚕糸部門の(株)枦川製茶(鹿児島県南九州市)は中山間地を造成、全経営面積に乗用型機械化体系を導入し、省力化と低コスト生産を実現。自らで価格設定できる仕上茶の販売で高収益につなげた。
環境への配慮も目立った。園芸部門のせとだエコレモングループ(広島県尾道市)は、農薬と化学肥料の使用を低減した特別栽培レモンを生産し、食品メーカーと連携して付加価値の高い商品を開発。多角化経営部門のJA馬路村(高知県馬路村)は、ユズの6次産業化で成功した。ぽん酢や飲料などはヒット商品となり、魅力を村ごと発信し、全国にファンを増やしている。特産かんきつで消費者の需要に応えた好事例といえる。中山間地域で強い農業を実践する試みは、全国の産地の励みとなる。小さくて強い農業の魅力を広げたい。
畜産部門の(株)有田牧場(熊本県錦町)は情報通信技術(ICT)機器を活用し、黒毛和種繁殖牛500頭、同肥育牛480頭、ホルスタイン経産牛114頭を飼養する。耕畜連携を中心に地域の粗飼料資源をフル活用。飼料自給率向上が課題となる中、輸入飼料への依存度を減らす取り組みだけに、注目したい。
女性の活躍も光った。天皇杯と同時に「女性の活躍」部門で内閣総理大臣賞を受賞した新潟県小千谷市の新谷梨恵子さんは、サツマイモ栽培を通じて地域を元気にする。農家レストランの他、加工場を整備し、スイーツを開発。子連れで出勤でき、トイレやシャワーの設置など働きやすい職場づくりに励む。
日本農林漁業振興会会長賞のJA熊本市女性部は、子ども食堂への支援を通し、地域貢献にまい進。JAや市と連携し、管内全域の子ども食堂に地場産野菜を提供し、食農教育も実践。通年で野菜を提供しようと乾燥機まで導入した。行き届いた配慮が、地域全体を勇気づける。
受賞者の取り組みは、日本農業が直面する課題に対応している。受賞事例を参考に経営を見つめ直したい。