[論説]農業初の特定技能2号 長期雇用へ環境整備を
外国人による特定技能制度には、在留期間が通算最長5年の「1号」と、在留期限の上限がない「2号」がある。政府は昨年6月、農業も2号の対象にすると決定。初回の技能試験は昨年12月に行い、耕種分野は受験した38人のうち3人、畜産分野は受験した19人のうち9人が合格した。農業分野では初となり、在留期間が10年を超えれば、永住権の申請も可能になる。
農業で2号の合格者が出たことを受け、坂本哲志農相は「優秀な外国人材に農場長など現場のリーダーとして中長期的に活躍していただくということで、大いに期待している」と述べた。
担い手不足の中、国籍や性差を問わず、優秀な人材の確保は欠かせない。地域の一員として温かく迎え入れよう。人種差別などの人権侵害は絶対にあってはならない。単なる労働力としてではなく、同じ人間として向き合うことが重要だ。2号合格者は日本語を理解できるが、帯同する家族は、言語や暮らし、地域の行事などに戸惑うはずだ。行政や監理団体には家族を含めた支援を求めたい。
広島県北広島町の中原ファームでは、ベトナム出身の女性2人が2号に合格した。2人は2019年から技能実習生となり、22年に1号に移行した。技能試験は、日本農業の一般知識や作物の生育などの知識が問われる。このため同ファームの多川純利代表は、農業用語を教えたり、試験直前は農作業の合間に勉強する時間を設けたりして支えた。また、地域になじめるよう、夏祭りや神楽にも参加してもらった。「外国人材は生産現場の支え手。協力して中山間地域の農業を守りたい」と多川代表。血の通った付き合いが、結果として長期雇用につながる。
早稲田大学の堀口健治名誉教授は「多くの国は単純労働の出稼ぎだけで終わることが多い中、日本のような仕組みは世界でも珍しい」とみる。2号取得によって「責任あるポストで能力を発揮できれば、他の従業員の意識も高まる」と期待する。
国籍や性差を超え、誰もが安心して農業現場で働き続けるには、清潔なトイレなど暮らしや環境の整備は不可欠だ。受け入れ側は働きを公平・公正に評価しよう。外国人材を日本農業、地域を守るパートナーと位置付け、「共に歩む」意識を醸成すべきだ。