[論説]指定管理鳥獣に熊追加 生活圏も対策の強化を
本州以南に生息するツキノワグマの出没件数は、23年度(24年2月末までの速報値)で2万4000件を超え、過去最多となった。例年の傾向では、冬眠から目覚めた熊が活動を始めた春先から6月をピークに目撃情報はやや減少し、秋以降に再び増える傾向があるという。
温暖化を受けて今冬(12~2月)は全国の平均気温が統計開始以来2番目に高く、降雪量も少なかった。それだけに高温と少雪で熊の行動も早まっている可能性がある。山菜採りや登山の計画を立てている人は、熊の出没情報を事前に確認する必要がある。
熊は、北海道のヒグマと本州以南のツキノワグマがいるが、23年度はどちらも許可捕獲数が過去最多となった。国が調査した熊の生息域は、環境省によると最新の18年度と03年度を比べて、北海道で1・3倍に広がった。
ツキノワグマは絶滅した九州と縮小傾向にある四国を除いて生息域は拡大。特に中国では2・7倍、近畿は1・7倍と急速に広がっている。
背景には、過疎高齢化に伴って農林業が衰退したことで里山が荒廃し、人への警戒心が薄れた熊が、集落周辺まで分布域を拡大していることがある。23年度はさらに、餌となるブナの実が東北を中心に大凶作となったことで、餌を求めて人里にも出没するようになった。環境省によると、人身被害の7割に当たる141件が東北で発生しており、特に9月から12月にかけて人家周辺での被害が多発した。
求められるのは、熊の調査・観察を通して人の生活圏と緩衝地帯、保護優先地域のすみ分けを徹底することだ。集落周辺の刈り払いや、放任果樹の管理、除去が重要となる。さらに熊が指定管理鳥獣に加わったことで過度な捕獲をしないよう、配慮しなくてはならない。
近年の急激な気候変動が、山の木の実の豊凶にも影響を及ぼす恐れがあり、今年も餌不足となり、熊の人里への出没が増える可能性はある。侵入を防ぐため、行政やJA、地域を挙げてすみ分けに取り組む必要がある。
また、山菜採りで入山する場合は単独で行動せず、熊との遭遇を避けるために、鈴やラジオなど音が出る物を携帯するなど、装備を確認しよう。地域を挙げて人里に熊を呼び込まない対策を励行し、熊との共存を目指したい。