
「ミルク」新定番へ
今年3月、北海道生乳の使用を前面に押し出したフレーバー「ザ・ミルク」を新発売させた。牛乳を飲んだような口に広がる強いミルク風味ながら、後味はすっきりして、次のひとすくいをしたくなるとする、同社の肝いり商品だ。
あえてパッケージに「北海道生乳100%」のマークを配して原料へのこだわりを目立たせ、消費者の購買意欲をかき立てる。同社が国内で製造するアイスのうち、豆乳ベースのアイスを除いた全16種の定番商品が、北海道産生乳を原料とするが、産地をここまで強調する商品は他にない。開発期間は2年。販売は好調で、計画を2割上回るペースだという。
同社では、人気の定番フレーバー三つ(バニラ、ストロベリー、グリーンティー)を”コアスリー”と呼ぶ。「ザ・ミルク」はそこに割って入り、「”コアフォー”になる日が来るかもしれない」(武田悠介マネージャー)と期待を寄せる。

品質に厚い信頼
世界100カ国以上で販売される同社のアイスは、わずか世界3カ国で製造されている。米国、フランス、そして日本だ。「日本のアイス市場は世界有数」(ハーゲンダッツジャパン)で、日本で製造されたアイスはほぼ国内で消費される。2024年度の売上高は、過去10年で最高水準の528億円。ミニカップ325円(希望小売価格)で試算すると、1日当たり44万5100個を売り上げる。
そんな同社がこだわりの生乳を調達する産地は、北海道東部に位置する根室地区と釧路地区を合わせた根釧エリアだ。

主力となるJA浜中町は、同社が日本に上陸した1984年に取引を始めた。当時JAは、より濃厚な生乳を生産するため、JA独自の「酪農技術センター」を開設した。徹底した管理体制の中で生産された濃厚な生乳が、創業者ルーベン・マタスの目にとまった。
アイスクリームの原料は、濃厚なミルクの風味を際立たせるため、乳脂肪分が4・0%を超える生乳を主に使う。JA管内の放牧地は海に面し、塩分やミネラルを含んだ潮風を浴びた栄養豊富な牧草が育つ環境となる。
生乳の成分に加えて、放牧地の土壌や牧草の成分の数値を詳細に出す方法を40年以上続ける。国内での牛海綿状脳症(BSE)の発生を機に、2002年からは乳牛一頭一頭の管理を徹底している。「乳牛にとってストレスのない飼育環境がアイスクリームのおいしさに影響している」と両者は口をそろえ、信頼関係は揺るがない。
アイスの市場規模は直近23年度が過去最高を記録し、拡大基調だ。背景には、国産生乳でミルクの風味を際立たせた商品の増加がある。パッケージで産地をアピールし、国産生乳の品質や魅力を訴求する機会となっている。酪農乳業界が乳価改定で生産コストの転嫁を目指す一方、商品の値上げで牛乳・乳製品の消費は伸び悩む。消費者の理解を醸成するには、季節を選ばず消費されるアイスの存在が実は有望ではないだろうか。
(永井陵)