[論説]どう防ぐ鳥獣害 集落維持へ広域連携を
農水省によると、鳥獣による農作物被害額は、10年度の239億円をピークに減ってはいるが、近年は150億円台で推移している。鳥獣別に見ると最も多いのが鹿で65億円、イノシシ36億円、カラスなどの鳥類が28億円と続く。希少植物の食害などもあり、数字以上に影響は大きい。
捕獲頭数は、鹿は前年並みの72万頭で、生息域が広がる中で捕獲が進まない。イノシシは6万頭増えて59万頭。
農水省は、23年度までに生息頭数を11年度比で鹿は約155万頭、イノシシは約60万頭へ半減させる目標を掲げたが、達成できなかった。特に鹿では目標と大きな差がある。同省は昨年、5年間の延長を決めたが、狩猟者の高齢化などで人材は不足しており、目標達成のハードルは高い。
温暖化の影響でイノシシは北上し、荒廃農地の増加で生息域は拡大している。鳥獣被害は離農の動機になるだけに、個々の取り組みに加え、地域を越えて連携することが集落の維持につながる。まずは①やぶの刈り払いなどによる生息環境管理②柵の設置などの侵入防止対策の徹底③捕獲による個体数の管理――の三本柱で進めよう。
対策の要となる、鳥獣被害対策実施隊(実施隊)の活躍にも期待したい。23年4月時点で、全市町村の約9割に当たる1517市町村が被害防止計画を策定し、うち1246市町村で鳥獣捕獲や柵の設置などをする実施隊を設置し、隊員数は全国で4万2110人と増えている。同省は銃刀法技能講習の一部を免除するなどの支援をしており、積極的に利用したい。
先行する地域に学ぶのも重要だ。宮城県七ケ宿町では、猿やイノシシ対策としてワイヤメッシュ柵の設置や雑草刈りなどを行い、農家が積極的に関わることで、イノシシによる被害は、ピークだった18年度の約14ヘクタールから22年度は34アールまで激減した。継続的に取り組む上で欠かせないのは、狩猟で生計を立てる実施隊の中核メンバーを確保すること。現在は5人いるが、中長期的な人材育成が課題となっている。
人手不足を補うために、情報通信技術(ICT)を活用する方法もある。センサーカメラで鳥獣の生息域や種類を把握し、効果的なわなの設置につなげる。
被害が及ぶのは農作物だけでない。熊の出没で命の危険にさらされている地域もある。対策は待ったなしだ。