[論説]鳥獣害交付金の見直し 安易な削減許されない
財務省は先月28日、各省庁の事業の効果を点検する予算執行調査の結果を公表した。やり玉に挙げられたのが、農水省の「鳥獣被害防止総合対策交付金」。2024年度の予算額は148億円で、イノシシや鹿、サルなどの鳥獣の捕獲、侵入防止柵の設置、餌となる放任果樹の除去などを支援する内容だ。
財務省は、同交付金について現地調査を行った農地33カ所のうち、柵と地面の間に隙間があるなど約8割で不備があったと指摘した。適切に設置・管理していない市町村には、柵の設置費用を支払わないよう提起した。
また、鳥獣の捕獲頭数と農業被害の減少には明確なつながりがないと指摘。単に捕獲するだけで、取り組みの効果を検証しない市町村への交付を見直すよう求めた。
予算は国民からの税金で、効率的に使うため、無駄がないかを点検し、必要な見直しを行うのは当然のことだ。だが、財政負担の軽減ばかりに着目し、農業農村の維持に不可欠な予算まで削ることはあってはならない。
過疎高齢化は進み、里山は荒廃し、鳥獣による農作物被害は深刻な状況が続く。農水省によると、直近22年度の被害額は156億円に上る。ピークだった10年度の239億円からは減ったが、近年は150億円台で横ばいが続く。
鳥獣による農作物被害は、農家の意欲を奪い、離農や耕作放棄地の増加を招く。被害の数字以上に大きな打撃がある。被害を減らしていくために、国の充実した支援が必要な状況に変わりはない。
坂本哲志農相は2日の閣議後会見で、25年度予算の概算要求に向けて同交付金を見直す考えを表明した一方、「農業生産を継続し、集落を維持していくためには鳥獣対策は不可欠」と強調、過剰な予算削減圧力をけん制した。
財務省は16年の予算執行調査でも、「水田活用の直接支払交付金」を取り上げた。あぜがないなど米が生産できない農地や、米以外を作っている農地にも同交付金が支払われていることを問題視し、除外基準の明確化などを求めた。これを受け、農水省は21年12月、今後22~26年までの5年間に一度も水を張らない農地を交付対象から除外する方針を決めた経緯がある。
現場に再び不安や混乱が広がらないよう、鳥獣害対策の見直しは慎重であるべきだ。