[論説]24年度森林・林業白書 生物多様性を重視せよ
地球には、推定約3000万種もの生物がいる。特に森林は、多様な生物がつながりを持ちながら生息している。この生物多様性が、食料や水、木材、酸素の供給、気候の安定をもたらし、人間社会を支える源である。
国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の森林は約41億ヘクタールと、10年から年間約470万ヘクタールも減った。生物多様性の維持も危うい。
日本は、国土の3分の2を占める森林大国で、生物資源の宝庫だ。原生的な天然林や里山林、人工林がモザイク状にあり、生物多様性に優れた森林が形成されている。木材の生産性向上は必要だとしても、持続的な森林に向けた主伐後の再造林や間伐などの適切な森林整備で、温室効果ガスの吸収量を確保し、生物多様性の保全に貢献することが欠かせない。24年度に課税が始まった森林環境税を有効活用し、森林を適切に管理していく必要がある。
希望は、木材自給率が18・8%(02年)から43%(23年)に向上していることだ。円安などで木材輸入が減少し、国産材利用が増加傾向にあるためだ。伐採期を迎えた国産材の利用をさらに推進し、外材依存を減らしたい。それが国内の林業振興となり、生物多様性の維持につながる。
一方、懸念されるのが森林火災が頻発していることだ。世界資源研究所によると、世界の森林焼失面積は23年に約1200万ヘクタールを記録し、20年ほど前の2~3倍に増えた。
国内でも森林火災が大規模化の兆しがある。白書によると、森林の焼損面積は近年、年間1000ヘクタール以下だったが、今春は岩手県大船渡市や岡山市、愛媛県今治市で大規模な山火事が発生。大船渡市では約2900ヘクタールが焼失し、1カ所の森林火災では過去60年で最悪となった。特に乾燥時期のたき火や野焼き、たばこの不始末などには十分、注意しなければならない。
日本大学生物資源科学部の串田圭司教授は「森林火災が増えると、大気中の二酸化炭素濃度が上昇し、地球温暖化が進み、さらに火災が増える。『負の連鎖』が加速度的に進む」と指摘する。
山火事は土壌の流亡と土砂災害のリスクも高める。梅雨に入り、集中豪雨で土砂災害が起これば、森林再生は妨げられ、生物多様性も損なう。国が率先して植林を促し、森林を再生する必要がある。